障害者福祉の就労系障害福祉サービスには、就労移行支援事業の他に、就労継続支援A型事業、就労継続支援B型事業、就労定着支援事業があります。就労継続支援B型は、一般的に雇用されることや、雇用契約に基づく就労が困難な障害者が利用するところという認識があります。
しかし、千葉県富津市にあるAlon Alon Orchid Garden(アロンアロンオーキッドガーデン)では、就労継続支援B型作業所ですが、工賃最高10万円(令和元年 平均工賃16,369円、出典:令和元年度工賃(賃金)の実績について(厚生労働省))、就職率100%(平成23年 就職率1.6%、出典:社会福祉施設等調査)という驚異的な結果を出しています。
どうしてこのような圧倒的な結果を出せるのか、実際にB型作業所を運営していく上での視点や、障害者の方がどのように働いているのかについて、NPO法人AlonAlon理事長 那部智史様にお話をお聞きしました。
インタビューは、全部で5回の記事になっており、今回はその4回目です。4回目では、B型事業所を卒業して企業に雇用されたいくつかの事例とAlonAlonが考える就労に必要なことについてお聞きしていきます。
生活介護からB型事業所、そして企業に就職した事例
Q:B型事業所を卒業して、企業に雇用された事例をお聞かせください。
A:生活介護に通われていた30代の女性の方の例です。はじめは、ご家族で見学にこられました。AlonAlonができたこと、お花を作っているということを近所で聞いたそうです。AlonAlonの胡蝶蘭の温室はとてもきれいなので、「わぁ、きれい。ここで働きたい。」と言ってくれました。私たちは来るものは拒まずなので、「どうぞ一緒に働こうね。」と言って受け入れました。AlonAlonは、生活介護の方でも受け入れています。もちろん条件はあります。それは、花が好きということ、そして、働くという意思を持っていることです。
この方は、B型事業所で1年ほど働いて、一昨年に大手企業の帝人に就職しました。帝人さんは、今、私たちの農園で一番大きく借りていただいている企業さんです。帝人さんの胡蝶蘭農園は、はじめ私たちの農園の一部をお貸ししたんですが、帝人グループは社員が2万人いて、連結売上高も8千万億円ある大企業ですので、私たちの農園の一部では胡蝶蘭の生産がまかないきれなかったんです。そうしたところ、帝人さんから千葉県のある市に農地を確保しました。そこに帝人専用の農園を作るのでプロデュースしてしてほしいというお話をいただきました。
現在、この農園はもう稼働し始めています。AlonAlonでは、その温室のプロデュース、胡蝶蘭の苗の販売、できた胡蝶蘭の配送といった面をすべてビジネスとして関わっていますけれど、そこで先ほどの彼女は、経験もあるので、胡蝶蘭の栽培に関わっている障害者の社員の方たちのお手本のような存在になっています。もともと生活介護を受けていた人で、工賃ももらえず、毎日ずーっと施設の中で内職作業のようなことをしていましたが、今では帝人の特例子会社の社員のいわゆるスターのような存在になったわけです。
Q:生活介護の方でも自分で働きたいという意思を持った方もいらっしゃるんですね。
A:厚生労働省の障害福祉行政というのは、自分たちがもう働けないなと思ったところに対しては、かなり大雑把に封じ込めているように感じます。これは、就労継続B型、生活介護に当てはまります。これらの2つの事業所は、特に障害者の人数が運営に関わるポイントになります。本来、「この人は生活介護が必要だね、仕事面じゃなくて生活面をしっかりやろうね。」とか、「この人はもう就労目指して頑張っていく段階だ。」というところが明確にはなっていません。
だからいろんなB型事業所を見に行きますけれど、この人は生活介護だろうという人がいたり、逆に生活介護のところではB型事業所でチャレンジできるんじゃないかと思われる人が混在しています。本来は、もっとていねいに福祉を見ていく必要があると思います。生活介護の人は生活介護、B型はB型というようにです。
B型事業所から外資系企業に就職したダウン症の方の事例
Q:他には、どんな方が就職に結びついていますか。
A:もうひとりは、うちのムードメーカーのダウン症のクマちゃんを紹介したいと思います。世の中ではダウン症の人は就労が難しいと思われています。ダウン症協会の人も言っていました。「どうして就労できるの?」って。だけど、私は可能性があると思います。ダウン症であっても、AlonAlonオーキッドガーデンで胡蝶蘭に対して、しっかりと勉強すれば、仕事はできるようになると思っています。
だからB型事業所に入りたいという人がいたら、私たちのスタッフができるか、できないかの区別をつけることはせずに、全スタッフが就労できると思って、取り組んでいます。実は、彼もですね、スイスにあるChubb損害保険会社という超一流の会社に入りました。AlonAlon初の外資系企業への就職です。
社会も、厚生労働省も、親もみんな諦めてしまうんですよ。それで結局は、生活介護、B型事業所を働けない人のたまり場にしてしまい、国家予算4千億円をつけて、なんか見えないように蓋をしてしまおうとする、これはダメだと思います。
仕事にチャレンジしたい、働きたいと思う子たちに対しては、その過程が辛くても、やったほうが彼らのためになるんです。健常者だったら辛いことでも耐えられるかもしれないけれど、障害者には辛い努力が向かないなんていう考えのほうが間違いであって、彼らも将来がちゃんとあって、そこに対して適切な努力をしていくのは当然だと思うんですよ。だけどそれをさせない世の中、社会、制度設計がおかしいと思います。
障害名や程度で判断しない
Q:ダウン症の方は退行が早いと言われているので、企業の雇用で躊躇する場合もあるかなと思いますが、その辺はどのように考えておられますか。
A:ダウン症の退行が早いというのは100%なんでしょうか。それは、決めつけですよね。たとえそうかも知れないとしても、今退行していないのであれば、まずはチャレンジするほうがいいと思いませんか。退行することが、あたかも決まっているような考え方をするのは、その人の将来を失わせることになると思います。
そして、退行したら退行したでいいじゃないかとも思うんですね。そこにまた適切な配慮があって、彼らが続けられるのであれば働き続ければいいし、辞めたいというのであれば退社すればいいわけです。健常者と同じです。でも、今退行していないのに、将来退行するということを決めつけて、彼らが就職できないほうが酷だと私は思います。
一般的な障害者雇用というのは、大半がオフィスに入って、何らかの仕事をする前提なので、いろんなスキルが要求されます。しかし、私たちのB型事業所では、ただ1点、胡蝶蘭の栽培の技術のみです。そして、たとえどんな大企業の社員の方であっても、私たちのB型事業所の利用者よりも、胡蝶蘭の栽培に関しては上回る能力は持っていません。
組織には適材適所がある
例えば、ある大手の銀行には優秀な社員がたくさんいます。でも、そこにいる社員の方がどんなに優秀でも、胡蝶蘭を栽培することにおいては、うちのB型事業所のメンバーにはかないません。しかも大手の銀行さんは胡蝶蘭をたくさん使います。だったら、彼らが作ったほうが利益につながります。この銀行をプラスにするチカラを彼らは持っているんですね。そこには、ダウン症かどうかは関係ないんです。なので、専門性を磨くということを大事にしています。もちろんそこには、マーケットが伴う技術であることが必要です。そして、彼らが必要なのは、自分の所属している会社のために自分が役立っているのかどうかということです。これは一番大切な点だけれど、意外と気づかれていないと感じています。
私は、就労しようと思っている人すべてを障害者雇用できる社会を作りたいと思っています。そんな中で、いわゆる重度の障害者は就職できないと、まるで臭いものに蓋をするように上澄みの障害者が働くことを論じる障害者雇用の話は、ある意味理想論であり、軽薄なものに感じられます。また、特例子会社やサテライトオフィスの働き方を批判する人たちがいますが、私はそれらの人たちを障害者雇用原理主義者と思っています。それも、きれいごとしか言っていないように思えます。
そう言うんだったら、B型事業所で働きたいと思っている彼らの就労のスキームを考えてみてほしいですね。B型とか生活介護とかで本当に働きたい、社会に出ていきたい、経済的な自立をしたいと思っている重度の彼らが社会に出ていくためのスキームを考えてみなさいよといった時に、何の答えも出してこないんです。それは、薄っぺらですよねと思ってしまいます。
就職に大事なのは働く意欲、60歳で就職した事例
Q:働きたいという意思のある人は、いわゆる一般的に難しいと言われていること、障害の重さなどで判断されていないですね。
A:そうです。今までのAlonAlonに就職した一番年齢の高かった人は、60歳です。本人が就職したいと思ったら、就職させるんです。60歳になって就職した方は、札幌に家族で住んでいました。お姉さん家族と住んでいて、ある社会福祉法人の作業所にいたんですけれど、何もできないと言って、何もさせてもらえていなかったんです。それで、AlonAlonオーキッドガーデンのことを聞きつけて、家族ごと富津に引っ越してこられました。彼女は1年間働いて、今は社員として採用されて、そこの会社のお花を育てています。
本人が就職したいという年齢は、人それぞれによって違うんですよね。状況によっても違うし、家庭環境によっても違う。でも、特別支援学校の先生は、まだその子が就職したいなんて思っていなくても、学校としては就職率もあるし、先生たちの実績も必要なので就職させてしまう。これは失敗の原因となります。
就職する時期は人によってそれぞれ違う
一度就職に失敗して、AlonAlonオーキッドガーデンにきて、1年後にイオン銀行に就職した子がいます。彼は特別支援学校を卒業後に、近所のスーパーに就職したんですね。でも、職場ではあまり障害者雇用に対しての理解がされていませんでした。そこに何が起きたかと言うと、いじめです。彼はいたたまれなくなって退社しました。これは特別支援学校の先生が、そのスーパーの職場環境をちゃんと見ていればわかるわけですよ。彼が働くには、職場に配慮がないなと。でも、そんなことは、ほとんど考慮されません。
AlonAlonオーキッドガーデンでは何をしたかと言うと、胡蝶蘭のスキルをもたせる。それによって、「企業としても君がいるから会社の収益に貢献してもらえるし、君がいないと困るんだよね。」って言えるところまできました。そして、彼はイオン銀行に就職しました。B型事業所にきた時には、ある意味自己肯定感がほぼないような状態でしたけど、今は自己肯定感がとても強まっています。彼自身の自信が取り戻せたんですね。今は、自分から名刺を配っています。これがおそらく帰属意識になるんだと思います。
ですから、就職したいというタイミングは人それぞれです。特別支援学校の卒業時に人生を決めるなんてナンセンスだということですね。
情報発信にもチカラをいれていく
Q:AlonAlonオーキッドガーデンは、できて3年になるそうですね。
A:そうです。最近は、YouTubeチャンネルを作って情報発信をすることもしています。AlonAlonは、他の事業所と圧倒的に違うところがあるんですけれど、それは入所してくる利用者の方にメディアに出ることに了承をいただくということです。「AlonAlonは、新聞、雑誌、メディア、TV局、いろんな人が取材にきます。顔出しができない人は、ご遠慮申し上げています。」って伝えます。そして、メディアに顔がでても問題ありませんという誓約書を書いてもらうんです。
障害を持っているからって、何も問題あることしているわけではありません。どうしてボカシをかけるんですかって言うことなんです。それをすると、リアリティがなくなって、伝えるチカラがなくなります。だからAlonAlonではFacebookもホームページもみんな顔を出しています。実はみんな、TV局の取材がくると、「僕が出たい。」って言うくらいです。
世の中の障害福祉施設の人は、そこが間違っていると思います。彼らが出たら大問題だみたいなことを言いますけれど、じゃあその人は、犯罪者なんですかっていう話なんです。私たちと同じ人間、別にTVに出たっていいじゃないですか。そこにおそらく気持ち悪さが残るんですよね。そして、この人たち、障害者を社会問題にしているなって感じてしまいます。
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参考
ビジネスのチカラで福祉を変えていく その5~工賃10万円、就労率100%のB型事業所の実践~
ビジネスのチカラで福祉を変えていく その1~工賃10万円、就労率100%のB型事業所の実践~
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