障害者雇用に限らず働き方改革が進められ、在宅勤務や多様な働き方が受け入れられつつあります。厚生労働省は、障害者雇用の分野でも、障害者の多様な働き方の推進や職場で働くことが難しい障害者の雇用機会を広げていく目的のため、障害者を対象としたテレワーク(在宅勤務)の推進について平成28年度からモデル事業を進めてきました。
しかし、障害者を対象としたテレワーク(在宅勤務)を導入するためには、テレワーク(在宅勤務)の環境面・制度面の整備と在宅勤務場面における障害特性にあわせた雇用管理という二つの大きな課題があります。ここでは、厚生労働省がすすめてきた障害者テレワーク(在宅勤務)の状況や就労支援施策について見ていきます。
障害者テレワーク(在宅勤務)導入のための総合支援事業
趣旨・目的
障害者の多様な働き方の推進や職場で働くことが難しい障害者の雇用機会を確保する観点から、障害者を対象としたテレワーク(在宅勤務)の推進を図ることが必要不可欠な状況となっています。
しかし、障害者を対象としたテレワーク(在宅勤務)を導入するためには、テレワーク(在宅勤務)の環境面・制度面の整備と在宅勤務場面における障害特性にあわせた雇用管理という二つの大きな課題の解決が必要となっています。また、テレワーク(在宅勤務)の導入を検討する企業にとっては、依然として負担感が先行している状況もあります。そのため、このような状況を改善するための企業向けメニューを中心とした総合的な支援事業を実施することになりました。
厚生労働省からの委託事業
障害者テレワーク(在宅勤務)導入のための以下の事業を実施されています。
・在宅勤務導入コンサルテーション事業
・導入のための総合支援事業(在宅勤務ノウハウ蓄積モデル事業)
在宅勤務導入コンサルテーション事業
障害者のテレワーク(在宅勤務)導入希望企業の開拓及び導入支援を実施しました。あわせて障害者の在宅雇用導入に関するセミナーを実施して在宅雇用導入に関するPRを行っています。
在宅雇用導入のためのコンサルティング
モデル企業に対し、テレワークコンサルタントを派遣し、テレワーク制度がある企業については、現行の制度の課題を抽出しました。また、テレワークの運用を検討している企業については、制度構築準備を支援してきました。
在宅雇用コーディネーターの委嘱
コンサルテーション企業とモデル企業の総合調整役として、社内研修の実施したり、先進企業の視察、採用、教育まで総合的にサポートしてきました。
障害者テレワーク(在宅雇用)事例集を作成
収集した事例を踏まえ、在宅雇用を導入のプロセス、雇用している障害者の障害種別や業務、導入のメリットや課題などをまとめた事例集を作成しています。
障害者テレワークセミナーを開催
2017年11月、東京都内において、障害者テレワークの普及を目的に、企業を対象としたPRセミナーを開催しています。
在宅勤務ノウハウ蓄積モデル事業
既に雇用している障害者を対象として在宅勤務を導入してきました。また、障害者を新たに在宅雇用者として雇い入れる企業に以下の取組等を通じてノウハウを伝えたり、蓄積してきました。
社内研修の実施
各企業の障害者の雇用状況やテレワークの導入状況に合わせ、社内講習会を実施してきました。障害者雇用の経験がない、または不足している企業については、障害者雇用に関連する法律や障害種別とその一般特性、雇用の際に企業が利用できる公的支援など、基礎知識編の研修を実施しています。障害者の雇用実績がある程度ある企業については、各企業の課題を解決するために有効な研修を実施しました。
先進企業に対する視察の実施
平成28年度の厚生労働省「ICTを活用した新たな障害者の在宅雇用推進のための支援事業」のモデル企業として、クレディセゾン、サイボウズ、ゾーホージャパン、在宅雇用の実績が豊富な企業であるOKIワークウェルやスタッフサービス・ビジネスサポートなどの視察を実施しています。
また、北海道旭川市で、約30名の障害者在宅雇用を実現したリクルートオフィスサポートの視察もしています。自治体との連携の仕方や地方の障害者の状況を把握することを目的に視察などを行い、採用や雇用管理の方法、テレワークにおけるセキュリティ対策やコミュニケーション方法などのノウハウを蓄積しています。
障害者の採用と研修
採用活動は、ハローワークの公開・非公開求人、企業や在宅雇用コーディネーターがネットワークを有する支援機関や人材紹介事業者など、求める人材像や職種、部分在宅か完全在宅かなどに合わせ多様な採用チャネルを活用して実施してきました。完全在宅雇用を実施する企業においては、仙台・熊本・高知など地方で会社説明会と面談会を実施しています。
導入事例や課題等の提供
モデル企業が実施したことで得られたノウハウや課題、改善策を事例集の情報がまとめられています。
平成29年度厚生労働省委託事業 株式会社テレワークマネジメントが実施
「障害者テレワーク(在宅勤務)導入のための総合支援事業」としては、10社の企業が参加しました。参加した企業は次のとおりです。
価値住宅株式会社
サントリーホールディングス株式会社
株式会社ジャパンタイムズ
株式会社セルム
日本航空株式会社
パーソルチャレンジ株式会社
株式会社バンダイナムコウィル
阪和興業株式会社
YORISOU社会保険労務士法人
楽天ソシオビジネス株式会社
障害者の在宅雇用:働くことに困難のある障害者の雇用事例
事例1:重度の身体障害者がテレワークで就労
・徐々に筋力が低下していく難病「脊髄性筋萎縮症」により、手先でマウスを数センチ動かせる程度、夜間は人工呼吸器を使用。
・入院し生活介助を受けながら週10数時間程度、テレワークで勤務。
・広報業務(メールマガジンやSNS、ブログの執筆や編集)を担当。
※通常のキーボードを操作できないため、「スクリーンキーボード」(マウス操作のみで文字入力可能)などを活用
事例2:テレワークで地方の障害者を多数雇用
・東京に本社のある企業が、地方の障害者をテレワークで雇用。
・グループ各社の情報サイトの審査等を担当。
・現在までに約30人を雇用しさらに拡大予定。精神・発達障害者も雇用。
事例3:半身麻痺の身体障害者がテレワークにより就労
・左半身麻痺がありパソコンは片手で操作。
・通勤が困難であることから週3日の在宅と1日の出社を組み合わせて勤務。
・キュレーション業務(インターネット上の情報を収集しまとめる)を担当。
まとめ
在宅勤務や多様な働き方が受け入れられつつある中で、障害者雇用の分野でも、多様な働き方を推進したり、職場で働くことが難しい障害者の雇用機会を広げていく目的で、テレワーク(在宅勤務)の推進が平成28年度からモデル事業が進められてきました。
障害者を対象としたテレワーク(在宅勤務)の導入を進めていくためには、テレワーク(在宅勤務)の環境面・制度面の整備と在宅勤務場面における障害特性にあわせた雇用管理という二つの大きな課題がありました。
しかし、すでに障害者テレワーク(在宅勤務)に取り組んでいる企業も増えていますし、今回の厚生労働省のモデル事業の実績や報告書からも十分に企業での取り組みが可能であることを示しています。これからは、なかなか思うように障害者雇用が進められていない企業にとっては、テレワーク(在宅勤務)も選択肢の1つとして考えるのもいいかもしれません。
参考
【GBOの雇用後編】精神・発達社員が活躍するテレワーク3つのポイント
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