事業主が障害者の雇用するときに、施設・設備の整備や適切な雇用管理を図るための特別な措置を行う場合に、その費用の一部を助成して、事業主の一時的な経済的負担を軽減し、障害者の雇用の促進や雇用の継続を図ることができるのが、「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」です。
この助成金で活用できる内容としては、働く職場の環境を整えるものも含まれますが、通勤や住宅に関しても活用することができます。
障害者雇用納付金制度に基づく助成金や障害別にどのように活用できるのかを見ていきたいと思います。
障害者雇用納付金制度に基づく助成金の種類
障害者雇用納付金制度が原資となっている助成金には、次のようなものがあります。
障害者作業施設設置等助成金
障害者の新規雇い入れまたは継続雇用を図るため、その障害特性による就労上の課題を克服し、作業を容易に行えるような配慮された作業施設等の設置・整備を行う事業主に対して支給される助成金です。
障害者福祉施設設置等助成金
障害者の継続雇用を図るため、障害者が利用できるよう配慮された福利厚生施設等の設置・整備を行う事業主または当該事業主が加入している事業主団体に対して支給される助成金です。
障害者介助等助成金
重度身体障害者等の新規雇い入れまたは継続雇用を図るため、その障害種類や程度に応じた適切な雇用管理のために必要な介助者の配置等の特別な措置を行う事業主に対して支給される助成金です。
重度障害者等通勤対策助成金
通勤が特に困難な身体障害者等の新規雇い入れまたは継続雇用を図るため、その通勤を容易にするための措置を行う事業主または事業主を構成員とする事業主の団体に対して支給される助成金です。
重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
重度身体障害者等を多数継続して雇用し(※)、これらの障害者のために事業施設等の整備等を行う事業主に対して支給される助成金です。
※ 対象障害者10人以上を、1年以上継続して雇用し、継続して雇用している労働者数に占める割合が20%以上であることが条件になります。
具体的に効果的に障害者雇用で助成金を活用した事例を見ていきましょう。
雇用する障害者の通勤や住宅で活用できる助成金
通勤時の負担を軽減するために駐車場を賃借
活用した助成金:重度障害者等通勤対策助成金(駐車場の賃借助成金)
ケース1
重い心臓機能障害(1級)がある A さんは運動について制限があるため、心臓に過度な負担をかけることができません。通勤のために公共交通機関を利用すると、最寄り駅までの徒歩や階段の昇降が必要となることや、自宅から最寄り駅までの距離もあることから、通勤が身体的な負担となってしまうという課題がありました。
そのため企業は、 A さんの通勤に関して、助成金を活用して事業所から徒歩1分の場所に駐車場を借りて、自家用車での通勤を認めることにしました。Aさんは通勤時の身体的負担を軽減することができ、安心して仕事に取り組むことができています。
ケース2
パソコン入力作業の担当として精神障害のあるBさんを採用しました。Bさんは人混みが苦手で強いストレスを感じることがあり、公共交通機関での通勤が難しい状況であったため、事業所の送迎車により通勤していました。しかし、ほかの従業員との乗り合いであるため送迎車の利用も次第に困難となったことや、通勤に対するストレスから生活リズムが崩れ、仕事を休みがちになってしまいました。
仕事を続けることが難しく、契約更新ができるかどうかを迷う状況もありましたが、面談の中でBさんからは車通勤の希望が出ました。そこで、助成金を活用して事業所に隣接した駐車場を賃借し、車通勤を認めることにしました。その後、Bさんは通勤ストレスが軽減されて生活リズムも改善し、現在も雇用継続が図られています。
ケース3
ある情報システムの会社では、身体障害1級で車椅子を使用するCさんを新規採用し、社内システムの構築業務に従事してもらうことに決めました。しかし、最寄駅から事業所までの通勤経路には段差や傾斜が多いこと、通勤時間帯の駅構内は非常に混雑し、車椅子による移動が難しく危険であることから、公共交通機関による通勤にリスクが多いことがわかりました。
そのためこの企業では、Cさんの自家用車による通勤を認めるとともに、助成金を利用して事業所に隣接した駐車場を借り上げることにしました。その結果、Cさんは通勤しやすい状況を整えることができ、通勤に要する体力を消耗することなく業務に集中できるようになりました。
車椅子の社員のために専用の屋根つき駐車場を設置
活用した助成金:障害者作業施設設置等助成金(第1種)
あるサービス業の会社では、身体障害1級で車椅子を使用するDさんを雇用しました。事務所の中はレイアウトを工夫することで、車椅子のままでも大きな問題なく仕事をすることができていました。しかし、社員用の駐車場は社屋から離れており屋根がないため、雨の日には、Dさんの出退勤時に同僚が車の乗り降りを手伝う必要がありました。
そこで、この企業では助成金を利用して、雨の日でも一人で移動できるように社屋の出入り口付近から駐車場までの動線を舗装し、屋根つき駐車場を設置しました。その結果、Dさんは自分一人で車の乗り降りができるようになりました。
通勤時の負担を軽減するために職場の近くに住宅を賃貸
活用した助成金:重度障害者等通勤対策助成金(住宅手当の支払助成金)
ケース1
人混みに強いストレスを感じるEさんは、出勤時のストレスを解消するために時差出勤や、土日の出勤等を試していましたが、それでも欠勤や体調の不調が多く、仕事にも影響が出てしまう状況が見られていました。
そこで、雇用している企業は、Eさんの主治医と相談し、会社へ徒歩で通える範囲の場所に Eさんを引っ越しすることを検討しました。しかし、Eさんの経済的な負担が問題となったため、助成金を利用して通常の社員の住宅手当にプラスした手当を支給する仕組みを整備することにしました。Eさんは、通勤の問題が解決し就業環境が改善されたことで、安定して仕事ができるようになりました。
ケース2
ある企業で長年働くFさんは、勤務中に突然体に力が入らなくなり、転倒したため、病院で診察してもらったところ、進行性の病気であることが判明し、身体障害者手帳を取得することになりました。
Fさんは、自宅から電車とバスを乗り継いで1時間の通勤時間がかかっていましたが、障害者となり、通勤することが困難であること、会社の近くへの引越しを希望していることがわかりました。
そこで、この企業では助成金を活用して、職場から徒歩数分の場所に、敷地内にも室内にも段差がないバリアフリー住宅を賃借することにしました。その結果、杖で歩行するFさんの通勤の負担が解消されました。また、今後、病気の進行により車いす利用となった場合でも対応可能な状況をつくることができています。
ケース3
Fさんは、営業職として長年活躍していましたが、病気により、腕や脚に大きな障害が残り身体障害2級となりました。会社はFさんの業務の内容を見直し、外回りの多い営業職から事務職へと配置転換したため、仕事の面での問題は解消されました。しかし、Fさんにとって、杖をついて満員電車で通勤するのは大変だったようです。
そのため、企業は助成金を利用して、Fさんのために職場から徒歩数分のエレベータつきで、室内は段差がないバリアフリー住宅を借り上げることにしました。その結果、Fさんは仕事を続けることができ、企業としても貴重な戦力を失わずにすみました。
まとめ
障害者雇用では、いろいろな助成金がありますが、ここでは「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」を活用して、どのように通勤や住宅に関する環境を整えることができるのかについて見てきました。
障害者が働き続けるためには、職場や仕事面の配慮も必要ですが、それに加えて職場に通勤する時間や経路などの要素も大きな点です。これらを、すべて自己負担すると大きなものになりますが、助成金を活用することで、その費用の一部を助成することにより、障害者の雇用の促進や雇用の継続を図ることができます。
また、新規採用するときだけでなく、すでに雇用している社員が病気や事故などによって、障害者になることもありえます。このようなときにも、働き続けられるように通勤や住居に関する助成金の活用を考えることができるかもしれません。
こちらの助成金の窓口は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構となっています。詳細については、こちらからご確認ください。
参考
障害者雇用の助成金一覧 特開金、トライアル雇用などの助成金を解説
【助成金】採用時に活用したい障害者トライアル雇用の内容、手続き方法、メリットとは?
障害者手帳を持っていない発達障害者や難病の雇用で活用できる助成金
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