障害者雇用を進める一つの方法として、最近注目されているのが、障害者雇用のサテライトオフィスサービスです。障害者雇用自体は年々増加していますが、気になるのは、大企業と中小企業の障害者雇用の達成度合いの差です。
大企業では、障害者雇用率を達成している企業がほとんどですが、中小企業では、障害者雇用がなかなか進んでいないところも少なくありません。それでは、大企業だから障害者雇用の業務は豊富にあるのかといえば、こちらにも限界が見えてきたところも少なくありません。
そんななかで増えている障害者サテライトオフィスサービスですが、活用を検討している企業も増えている中で、社外以外で雇用することに懸念をいだく声もいまだに少なくありません。ここでは、障害者サテライトオフィスサービスが問題視される理由や、一般的なサービス内容などについて見ていきます。
ビジネガイド2020年2月号の「今知っておきたい障害者雇用」の「サテライトオフィスサービス」について執筆しました。サテライトオフィスサービスの概要や企業と障害者のメリット、企業の活用事例、今後の可能性等について扱っています。
サテライトオフィスサービスは法律的に問題があるのか?
障害者のサテライトオフィスサービスについては、一部の人からは障害者雇用をお金で解決している、障害者雇用に関して人材系のビジネスを行う企業に丸投げで障害者雇用に関わっていないなどの批判を受けることがあります。
しかし、実際に障害者のサテライトオフィスサービスを提供している企業はたくさん存在していますし、運営している企業のほとんどは人材系のビジネスを行っている会社です。人材派遣や人材紹介をサービスとして行っている企業は、労働局とのやり取りも多く、当然、法律的な面もクリアされて運用されています。
雇用契約を結んだ障害者のマネジメントは、人材系のサービス提供の企業が全て行っていると考えている人がいますが、これは間違っています。人材系のサービスを提供しているスタッフがサテライトオフィスに勤務する障害者に業務指示などを行うと、障害者と雇用した企業間の雇用契約に第三者が介在するとして、労働者派遣法や労働基準法に違反するからです。
そのためサテライトオフィスを運営する人材系のサービス提供企業は、企業ごとに個別ブースが設けて、仕事に関してはそれぞれの企業と障害者とのやり取りをして業務を行っている形をとっています。
ただ、障害者雇用全体のサポートがサービスの中に含まれている場合も多く、そのため業務以外のサポートとしてカウンセリングや生活相談等にのるなどの障害者雇用の全体的なサポートを行うということはあるようです。
多くのサテライトオフィスをサービスとして提供する企業の場合は、今説明したような形態で雇用していることが多いようですが、農業をサテライトオフィスとして提供している企業では、自社雇用の健常者スタッフ(シニア雇用)がいて、そこに障害者のメンバーが複数人つき、グループで仕事をするという形態をとっているようです。
どちらにしても法律的にクリアされていないと、当然ビジネスとして運用することは許されませんし、サービスを提供している人材系企業でも、法律に抵触しないように労働行政に確認したりしながら進めています。障害者のサテライトオフィスサービスは、派遣やアウトソーシングとは異なるものです。
サテライトオフィスサービスで、一般的に提供されるサービスとは
多くのサテライトオフィスサービスで提供しているサービスは、次のようなものです。
・障害者の採用を支援する採用支援
・障害者の業務を切り出す職域開拓
・障害者が働くサテライトオフィスの提供
・雇用された障害者の定着支援
・障害者雇用のノウハウの提供
サテライトオフィスで雇用することのメリットについては、下記の記事を参考にしてください。
↓
障害者雇用のサテライトオフィスは雇用率達成の数字合わせなのか?メリットから検討する
サテライトオフィスサービスでここが心配・・・
とはいっても、サテライトオフィスサービスを活用することに不安を感じる企業も少なくありません。どのような点が心配なのでしょうか。
セキュリティは大丈夫なのか
これは、サテライトオフィスを提供する人材会社のサテライトオフィスのスペースによって異なると思いますが、基本的には、サテライトオフィス内では、各企業ごとのブースが準備されます。ですから、自社のブースに他企業の社員が入ることはありません。
また、サテライトオフィスによっては、企業のブースの専用のセキュリティを設けることができるとこともあるようです。個人情報を取り扱う業務などを考えている場合には、相談してみるとよいでしょう。
また、これは障害者のサテライトオフィスに限ったことではありませんが、社外以外で働く形が増えていますので、在宅雇用やテレワークを実施するときのセキュリティ整備を参考にするのも方法です。社内システムへのアクセス権を制限したり、紙の印刷は禁止するなど、情報セキュリティを意識した取り組みをしながら障害者雇用を進めることも可能です。
サテライトオフィスで働く社員の帰属意識はどうなるのか
今は働き方が多様になっており、社員といえども、同じ職場で働くことばかりではありません。その環境を問題にするよりも、それぞれの企業で働いていることを社員が意識するための方法について検討し、取り組んでいくほうが大切です。例えば、各企業様のイベント(入社式や年次のキックオフ、忘年会等)への参加や社内報、定期的な面談などでフォローすることができるでしょう。
多くのサテライトオフィスでは、月に1回程度、本社から担当者が来て、職場の様子を見たり、社員の方と会う機会を作っているところが多いようです。また、その他にもメールやTV会議システム、チャットなどのITツールを活用してコミュニケーションを図るようにしていることもあります。
サテライトオフィスで雇用していても、企業が果たすべき雇用管理の基本は同じです。物理的な距離が離れていることを課題に感じるのであれば、それを埋めるための雇用管理や社員とのコミュニケーションを工夫していくように心がけてみてください。
サテライトオフィスでの雇用は、各種助成金の対象になるのか
サテライトオフィスの雇用は、企業で雇用する場合と同じですので、基本的には企業で活用するのと同様の助成金を活用することができます。しかし、最近では、助成金の受給も厳しくなっていますので、サテライトオフィスの問題ではなく、助成金が受給しにくい状況も見られています。
受給したい助成金があれば、該当する助成金の窓口に、まずは相談してみてください。
助成金については、こちらも参考にしてください。
↓
障害者雇用の助成金一覧 特開金、トライアル雇用などの助成金を解説
まとめ
障害者サテライトオフィスサービスについての法的な解釈を中心に、障害者サテライトオフィスサービスが問題視される理由や、一般的なサービス内容などについて見てきました。
障害者雇用に悩んでいる企業のお話を聞いていると、サテライトオフィスサービスを検討していると言われる企業が多くなりました。今までは、社内で工夫していればなんとか切り出せていた障害者雇用の業務の切り出しもかなり厳しくなっているように感じます。サテライトオフィスが企業に注目されるところは、そういうことも反映してもいるものと思われます。
サテライトオフィスについての意見はいろいろありますが、個人的には肯定的な考えを持っています。教育機関で就労支援にかかわったときに、送り出した学生たちがなかなか職場に理解されずに、退職してしまうケースをたくさん見てきたからです。本人の頑張りもある程度は必要ですが、それ以上に一緒に働く人の理解や環境を整えることが大切だと思っています。(ただ、企業での障害者雇用を中長期的に考えたときに、ずっとサテライトオフィスを活用することは、企業戦略としては少し厳しいかなとも感じています。)
そういった意味で、サテライトオフィスや特例子会社は、障害理解をしているスタッフがある程度いて、当事者は安心して働けますし、実際に、そのようなところで働くことを希望する人や、そのようなところだからこそ働ける人がいることも事実ですから、選択肢の1つとしてありだと思っています。
また、前例にならって、障害者雇用はこうあるべきと決めるのではなく、いろいろな選択肢を広げることも大切ではないかと感じます。例えば、一般企業の正社員として働く、特例子会社で働く、サテライトオフィスで働く、短時間(20時間以下も含め)で働く、在宅勤務で働く、A型事業所で働く、フリーランスで働くなどです。自分にあった働き方ができるようにすることも大切ですが、その他にも本当に企業で雇用するのが難しければ、金銭的な形で障害者雇用を支えるようにするなどの対応もそろそろ考えてもよいのかもしれません。
企業での障害者雇用も進んできており、また企業の経営や働き方自体も変化しつつあります。障害者雇用も次の段階に進んで行く必要があると思っていますし、それに合わせた制度も必要になってきていると感じています。
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