精神障害と体調不良─現場が戸惑わないための採用・配置・働き方の工夫

精神障害と体調不良─現場が戸惑わないための採用・配置・働き方の工夫

2025年06月21日 | よくある悩みと対応ヒント

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「昨日まで元気そうに働いていたのに、今日は突然欠席の連絡が来た」
「やる気はあるのに、出勤が安定しない」
「大事な時期なのに、急に体調を崩してしまって…」
精神障害のある社員と一緒に働く現場では、こうした“体調の波”に関する悩みの声が多く聞かれます。本人も努力しているのは伝わる。でも、仕事はチームで動いており、他の社員とのバランスや業務の進行を考えると、正直、戸惑いや不安を抱える現場も少なくありません。
特に精神障害の場合、「見た目にはわからない」「言葉にしてもらえない」ことが多く、職場がどこまで配慮すればよいのか判断に迷うケースが多発します。そして、調子のよい日もあれば悪い日もある“波”のある働き方は、現場にとって「どう付き合えばいいのか分からない」存在になりがちです。
今回は、精神障害のある社員に見られる体調の波の特徴と、それに対して職場でできる備えや対応について、実践的な視点で整理していきます。

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よく見られる“体調の波”のパターン

精神障害のある社員が職場で見せる“体調の波”には、いくつかの共通した傾向があります。もちろん個人差はありますが、現場でよく見られるパターンを知っておくことで、戸惑いや誤解を減らすことができます。

出勤できる日とできない日の差が大きい

週明けや連休明けなど、「切り替え」が必要なタイミングで調子を崩しやすいという声は少なくありません。特に朝の時間帯に体が動かず、出勤が難しくなることが多く見られます。

イベント前後や人間関係のストレスで不調になる

上司との評価面談、大きな納期、チームの中でのトラブルなど、心理的なプレッシャーを伴う出来事の前後で体調が乱れることがあります。緊張の反動として「燃え尽き」に近い状態になるケースもあります。

季節や月のリズムによる変動

気温や天候、日照時間の変化がメンタル面に影響することもあり、梅雨や真冬などに調子を崩しやすいという傾向がある社員もいます。また、月ごとの周期やホルモンバランスが影響する場合もあります。

薬の変更による体調の変化

精神疾患の治療では、処方される薬の内容が変更になることがあります。薬の調整初期は副作用(強い眠気・だるさ・意欲低下など)が出ることがあり、業務に影響が出ることも少なくありません。本人も予測できず、困惑するケースが見受けられます。

急に無口になる・集中力が落ちるなどの“見えにくい変化”

「今日はなんだか反応が薄い」「ぼーっとしている時間が多い」と感じるときは、体調が崩れ始めているサインであることも。表情・声のトーン・話すスピードなどから気づくこともあります。
こうした体調の波は、本人の努力ではコントロールしきれないこともあります。

職場でよくある悩みとジレンマ

精神障害のある社員と日々をともに働く中で、現場の担当者や上司が抱える悩みはとてもリアルで切実です。

「配慮したい気持ちはあるけれど、現実には業務が回らない」――そんな“理想と現実のギャップ”に、多くの現場が悩んでいます。

ここでは、特によく聞かれる悩みやジレンマを紹介します。

「任せたいのに、任せきれない」

重要な業務や納期のあるタスクを任せたいが、急な欠勤や体調不良で継続的に対応できるかどうかが不安。責任の重さがプレッシャーになり、かえって調子を崩すこともあるため、業務の割り振りが難しいと感じる声が多く聞かれます。

「他の社員との公平感に配慮が必要」

周囲の社員から、「あの人だけ特別扱いでは?」「自分ばかり負担が増えている」といった声があがることも。特に体調の波が理由で業務を免除されたり、配慮されたりすると、職場内の不公平感が課題になることがあります。

「“体調が悪い”の基準が見えにくい」

見た目には元気そうに見えても、本人は「今日は無理です」と言うことがある。逆に、体調が悪いと言いながら出勤することもある。この“外からは分かりづらい不調”にどう向き合うべきか、判断に迷う場面が少なくありません。

「関係を築きたいけど、どう声をかけていいか分からない」

声をかけることで逆にプレッシャーを与えてしまうのでは…と不安になり、話しかけるのをためらってしまう。あるいは、関係性が浅いため、少し踏み込んだ話題になると一気に距離ができてしまう――このような“関係づくりの難しさ”も現場でよく聞かれる悩みです。

これらの悩みは、決して「配慮が足りない」「理解がない」といった批判で済ませられるものではありません。むしろ、“どう関わるのが適切なのか分からない”という現場の真剣さの裏返しでもあります。

だからこそ、職場に求められるのは、精神障害のある社員が「安定して働きやすくなる仕組み」を整えること。そのために採用時や配属時に確認・準備しておきたいポイントを整理します。

採用時・配置時に押さえたいポイント

精神障害のある社員が安心して働き続けるためには、「配属先の職場の環境」と「本人との事前の確認」が非常に重要です。体調の波を完全になくすことは難しいですが、その波があっても働き続けられる前提をつくることで、定着率もパフォーマンスも大きく変わってきます。

採用時や配置時に職場側が意識しておきたいポイント

職場に求められる“受け入れの土台”があるか?

・業務に余白や柔軟性があるか
突発的な体調不良や休みに対応できるよう、仕事を属人化させず、他のメンバーでもカバーできる体制があるかどうかを確認しましょう。
・時間・空間に柔軟性があるか
「毎日フルタイム・定時出社・対面勤務」といった高い拘束条件が続くと、体調の波に対応しにくくなります。部分的な在宅勤務や時間調整ができるかどうかも、職場の受け入れ力の一つです。
・周囲の理解・関心があるか
精神障害についての基本的な理解があるか、または、理解を深める準備があるかはとても重要です。配属先に説明する機会を設けることで、後々のトラブルや孤立を防げます。

本人と確認しておきたい4つのポイント

1.どれくらいの勤務時間・働き方が安定して継続できそうか
本人が「フルタイムOK」と言っていても、実際には週4日勤務が限界だった、ということもあります。理想ではなく、「実際に無理なくできている働き方」をすり合わせておくことが肝心です。
2.通院・服薬・睡眠など体調管理の実態
通院の頻度や薬の副作用、体調を整えるために必要な習慣(睡眠時間の確保・人混みの回避など)を共有してもらえると、配慮しやすくなります。
3.体調が崩れる前に見られるサイン(予兆)があるか
本人が自分なりに「こうなると不調の前兆」と気づいていることがあれば、それを事前に共有してもらうことで、職場側の早めの対応につながります。
4.困ったとき、誰に・どう伝えるのが安心か
不調時の連絡先や相談先が曖昧なままだと、いざというときに孤立してしまうことも。直属の上司か、支援者か、あるいは人事か──「安心して声を出せる先」を明確にしておきましょう。
採用は“ゴール”ではなく、「働き続ける関係づくりのスタート」です。現場にとっても本人にとっても、最初に丁寧な対話と確認をしておくことが、のちの大きなトラブルを防ぎ、信頼を築く土台になります。

職場でできる対応のヒント

精神障害のある社員の“体調の波”と付き合いながら仕事を進めていくには、「安定して働きやすくなる土台」を職場側が意図的に整えることが大切です。ここでは、業務設計・関係性づくり・チーム体制という3つの視点に加えて、「働き方の柔軟性」も含めた実践的なヒントをご紹介します。

ある程度の「波がある」前提で仕事を設計しておく

・業務に余白を持たせる設計
→ 突発的な欠勤や体調不良に対応できるよう、タスクの属人化を避け、チーム内での引き継ぎやフォローができる体制を整えておきます。
・業務内容に応じた柔軟な働き方の導入(例:リモートワーク・時差勤務など)
→ 通勤によるストレスや体調悪化を防ぐために、自宅からでもできる業務がある場合は、在宅勤務やハイブリッド型の勤務スタイルを検討しましょう。また、午前中に体調が不安定になりやすい方には、時差出勤や午後からの勤務などの調整も効果的です。
・“得意・不得意”の整理をもとに業務を組み合わせる
→ 調子がよい時期に集中して進める仕事と、体調が不安定な時期でも対応可能な“比較的負荷の少ない仕事”をバランスよく配置することが、長期的な安定につながります。

“兆し”に気づける関係性をつくる

・1on1や雑談を通じて“普段の様子”を知る
→ 精神面の不調は外から見えにくいため、日頃から何気ない会話を重ねておくことが、変化に気づくきっかけになります。
・「体調どう?」と聞ける関係づくり
→ 表情や話し方に違和感があるとき、「無理していない?」「今日は少し疲れてるかな?」といった声かけが、本人の安心につながります。
・“報告しやすさ”を重視したコミュニケーション設計
→ 体調不良を伝えることにハードルを感じる人も多いため、チャットや定期フォーム入力など、非対面でのやりとりを取り入れるのも有効です。

チームで支える仕組みを整える

・共有ツール・フォロー体制の明確化
→ 業務進捗をチームで可視化できるツール(例:タスク管理ツール、クラウドシートなど)を活用し、「誰がどの作業をカバーできるか」を見える化しておきます。
・“特定の上司だけ”に依存しない支援体制
→ 支援が特定の1人に偏ると、関係が不安定になったり、対応が属人的になるリスクがあります。できれば人事・現場・社外支援者(定着支援機関など)との連携も含めてチームで対応できる形が理想です。
・周囲の社員への理解促進も忘れずに
→ 配慮がなぜ必要なのか、どう職場全体として支えるのか、簡単な説明をチームミーティング等で共有することで、不公平感や誤解を予防できます。

「精神のリモートワークは不安だ。」という声が出ることもありますが、精神障害のある社員にとっては、通勤負荷や人間関係のストレスが軽減されることで、結果的に勤務継続率が上がるケースが多く見られています。このようなことを事前に伝えておくことで、周囲からの理解を得やすくなります。

波のある働き方にも“安定”はつくれる

精神障害のある社員の“体調の波”は、見えにくく、予測が難しいものです。そのため、現場では「任せてよいのか不安」「どう支援すればいいのか分からない」といった戸惑いや悩みが起こりがちです。
しかし、それは「障害があるから難しい」のではなく、“波がある”ことを前提に職場の仕組みをつくっていないと難しく感じるという側面もあります。
たとえば──
・配属前に職場との相性や勤務条件をすり合わせておく
・得意と苦手、体調の変動をふまえて業務を設計する
・出勤が難しい日は在宅での作業に切り替えられるようにする
・普段の様子を知り、変化に気づける関係性を育む
・チームで支える体制やツールを整えておく

こうした取り組みは、精神障害のある社員だけでなく、すべての社員にとって「無理せず働き続けられる職場」をつくることにつながります。大切なのは、完璧な支援を目指すことではなく、「関わりながら整えていく」姿勢を持ち続けることです。

波はあっても、そこに理解と工夫があれば、安心して働き続けられる土台は十分に築けます。“特別な配慮”ではなく、“誰もが働きやすくなる工夫”として、まずできることから一歩始めてみてください。

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