精神障害者の雇用は難しい、職場定着しにくいと言われることがよくあります。その理由は、障害者本人の状態が不安定になりやすいことや、疲れやすいという精神疾患の特徴とともに、それを周囲の社員に伝えることができずに無理をしてしまうことが多いからです。
今回は、実際に、障害者を雇用している中小企業を対象にした調査結果をもとに、採用や職場定着で必要とされることについて見ていくとともに、精神障害者の社員とのコミュニケーションを図りやすくするためのコツについて考えていきます。
障害者の採用や職場定着のポイントとは?
障害者を雇用している都内中小企業を対象にした調査結果によると、採用時に重視することや、職場定着に必要なものとしてあげられた項目に、次のようなものがありました。
出典:障害者の一般就労にかかる就労支援機関実態調査(平成25年度、東京都福祉保健局実施)
障害者の採用時に重視すること
1位 就労意欲
2位 職業遂行能力・スキル
3位 健康管理
4位 同僚等とのコミュニケーション
5位 配属先部署等の社員の理解
職場定着に必要なもの
1位 就労継続意欲
2位 周囲の社員の理解
3位 周囲の社員との人間関係
4位 健康管理
5位 職業遂行能力・スキル
特に、障害者雇用の中でも、精神障害の雇用が増えていますが、障害の特性が見た目ではわかりにくいことや、本人が頑張ってしまい、周囲に悩んでいることや困っていることを伝えることができずに、働き続ける状態を作ることが難しく、退職してしまうことがあります。
合理的配慮で採用時に確認しているけど・・・
企業では採用時などで、合理的配慮について、どんな配慮が必要なのかや、要望をヒアリングしていることでしょう。実際に精神障害の方を採用した多くの企業が「面接で聞いたものの、配慮は不要だと言われる。」と言われます。
しかし、実際に採用すると、安定して働くことが難しかったり、希望する勤務時間の業務ができる体力や精神力があるとは見えないという声も少なくありません。また、そもそもどのような配慮提供が必要なのかが、言動から察知することが難しかったり、本人が「大丈夫」と言っているのに、どこまで企業が関わるべきなのか・・・、と感じることもあるでしょう。
多くの精神障害者の方と接してみて感じるのは、客観的に自分のことを見れている人は一定数いるものの、継続的なセルフケアや、自己管理ができていなかったり、配慮を求めるコミュニケーション力が足りないということです。また、自分では配慮を求められないものの、職場で一緒に接する人から方の理解や協力を希望する声もあります。
これらは、本来、就労訓練時期に身に着けておいてほしい点ですが、それができている人は残念ながら多くありません。そこで、企業では雇用した後に、定着するためのコミュニケーションの一つのノウハウとして、体調管理等を可視化するツールを活用することがあります。ただ、ツールを使っているからといって、「職場定着するわけではない」ということを覚えておくべきです。
大事なのは、このようなツールを活用して、本人が現状を把握できるようにすること、状況や状態に合せたセルフケアができるようになること、そして、一緒に働く職場の人に状態に合せた配慮を要求できるようになることを目的とすることです。また、周囲の人もこのような状況がわかることで、配慮を示しやすくなったり、コミュニケーションを取るときにポイントが見つけやすくなることでしょう。
精神障害者雇用のためのアプリやソフトもありますが、それら自体がいいかどうかというよりも、どのような目的のために使うのか、その結果を活用していくのかを考えていくことが必要です。それがなければ、どんなにいいツールを導入したところで、結果に結びつくことはありません。
どのように活用することができるのでしょうか。例えば、ある企業では精神障害のある社員は、毎日元気そうに働いていましたが、ある日突然体調を崩して出社できなくなりました。そして、再び出社したときには普段と変わらない様子でしたが、その後も突然休むことがありました。当事者にヒアリングをおこないましたが、不調の原因や体調の変化について自覚はなく、気づいた時には症状が悪化していることがわかりました。
そこで、体調管理の記録をつけることで、対象障害者社員は心の状態や体調の波を自覚し、必要時は自発的に相談を申し出ることができるようになりました。また、社員が記録したデータは、上長及び定着支援コーディネーターが定期的に確認し、気になる記録内容があれば上長から対象社員へ声掛けをおこなうようにしました。この結果、精神障害のある社員の突発的な休みが減少し、出社率が向上しています。
精神障害者への合理的配慮を示したいと思っているが、なかなか本人の自覚がない場合や、職場で一緒に働く社員が対応に悩んでいる場合には、このようなツールを活用することを検討してみるのもよいでしょう。
動画での解説はこちらから
参考
精神障害者を雇用するとき、どのように職場で配慮を示したらよいのか?
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