障害学生が直面する就職活動の壁と企業の新卒採用の可能性 前編

障害学生が直面する就職活動の壁と企業の新卒採用の可能性~ここだな代表に聞く 前編~

2025年01月11日 | 障害者雇用に関する法律・制度

障害者雇用にすぐに役立つ無料動画をプレゼント!

期間限定で障害者雇用にすぐに役立つ無料講義をプレゼントしています。ぜひお役立てください。※こちらは、無料講義となっています。料金は必要ありません。

障害者差別解消法ができ、大学でも学生への合理的配慮への対応が進んでいます。一方で、学業に対するサポートは進んできているものの、就職やキャリアに対する支援はあまり進んでいません。
また、サービスとして提示されることがあっても、従来の障害福祉サービス内のものでしかなく、大学に進学する学生のニーズに合わせたものとはかけ離れている現状があります。
このような中で、障害のある大学生支援を行っている菅野 智文さんから、障害のある大学生の現状や企業での新卒採用の可能性についてお話をお聞きしました。

——————————————————-
菅野 智文 氏
株式会社ここだな代表取締役
一般社団法人大学生の未来を支援する会理事・事務局長
ホームページ
【略歴】
京都大学法学部卒業、リクルートに入社、18年超の間一貫して人材領域に従事し、営業・商品企画・プロモーション等を担当、Webセミナー・合同企業説明会の商品責任者、就職ジャーナル編集長を担当。
2020年に独立。障害のある学生、マイノリティ大学生に向けたキャリア・就職支援に関する情報発信やコミュニティ運営に取り組む。「大学向け」のキャリア教育・就職支援サービスの企画運営を協働推進者として関わっている。
——————————————————-

Q:なぜ、障害のある大学生支援を始められたのでしょうか。経緯などをお聞かせください。
A:障害のある学生の支援を始めて2年半ぐらいになります。前職を含めて20年ほど人材系の仕事をしていましたが、その頃は、障害のある方々との接点は全くありませんでした。
実は大学時代は4年間、知的障害者の作業所に月1 回のボランティアに参加していました。作業所で働いている方々の余暇活動サポートのような感じで、レクリエーション支援をするサークルに所属していました。
作業所にいる方たちは40代から50代の方々も多く、その方たちのご両親が60代から70代くらい。そのお父さん、お母さんが自分たちの時間をもてるように、月1回ボーリングや映画、季節になると紅葉がりに一緒に行っていました。大学生時代は障害者の方と関わることがありましたが、就職して以降20年くらいは接点がありませんでした。
前職では大学のキャリアセンターや就職課の方たちと関わる仕事をしていた時期があり、独立してからも大学の皆さんと繋がりながら仕事をしていました。その中で、障害のある学生のキャリア支援や就職に課題を感じているという話を聞くことがあり、また、お付き合いのある企業の方からも、障害のある学生の新卒採用を強化していきたいという相談をいただいたことをきっかけとして、2年半前から障害のある大学生のサポートを始めました。

活動当初の1年ほどは、法人向けのコンサルティングを中心に様々な事業に取り組んでいたこともあり、本活動の企画は、数ヶ月に1回程度の頻度で実施していました。その後、取り組み始めてから1年ぐらい経った頃から、接点を持つ学生が増え、もっと就職活動について知りたい、いろいろな企画をやってほしいという要望が増えてきたので、障害のある学生支援の比重を増やしていくことを決めました。

現在は、障害のある学生の支援や大学のキャリアセンターからの仕事がメインとなっています。また、お付き合いのある大学からいろいろお声掛けをいただくので、外国人留学生向けの企画や、就活塾のようなプロジェクトを一般学生向けに企画することもあります。

Q:大学で法学部を専攻されていて、就職で人材系の仕事を選ばれたのは、どんな背景があったのですか。
A:大学時代は、法学部で弁護士を目指していて、ダブルスクールしながら勉強をしていた時期もありました。でも、弁護士事務所にインターンに行ったときに、法律相談に来られる方々を間近に見て、思い描いていた弁護士の仕事と違うなと感じたのです。
忘れもしないのですけど、私がインターンでお世話になった法律事務所で、複数件の離婚相談に陪席させていただくことがありました。泣き崩れる姿とか、感情をむき出しにする姿など、今までに見たこともない方々を目の当たりにして、二十歳成り立てで、そういう方々を目にする経験もなかったので、とても衝撃を受けました。
また、加害者の弁護をされている先生からは、被害者のご家族と思われる方から脅しの連絡が来ることもあるというお話もお聞きしました。本当にドラマの中の世界を見ているような日々でした。こういった世界の中で、毎日毎日仕事をしていくことができるのか、不安を感じていたときに出会ったのが、リクルートの人事の方でした。
その方に言われたのが、不安を感じているのは、弁護士の仕事をマイナスからゼロに持っていく仕事と私が捉えていて、それが私に向いていなんじゃないかと。もちろん、そのような仕事も社会には必要ではあるものの、自分には向いていないと感じているから不安に感じているのではないかということでした。そこで、弁護士以外の仕事も見てみようと思い、就職活動をして、結果的にリクルートに入社しました。
Q:20年近くいらっしゃって、どうでしたか。
A:そうですね、はじめの7、8年は仕事でいろいろできることが増えていくので、楽しくなっていきました。また、管理職になると、自分で決められる範囲や組織としてできることも増えてきたので充実感もありました。でも、次第に頭では理解できるけど心がついていかないという状態になることが出てきました。
四六時中、仕事にあくせく取り組んだ「成果」に対して、ちょっと疑問を感じ始めるようになってきました。もちろん、「成果」も大事ですし、喜んでくれる人はいるのですけど、この仕事は、自分がやるべきことで、自分がやりたいことなのかと。そんなときに、コロナ禍に入り、家にいる時間が増え、考える時間が増えた時に、次のステップに移るタイミングと感じて、今があります。
Q:なるほど、そんな中で、なぜ障害のある大学生の支援だったのでしょうか。
A:活動当初に、お付き合いのある企業の方と大学の方にご相談をいただき、企業3社と学生当事者20人ぐらいでオンラインのイベントを実施しました。本活動に取り組む中で、大学生の当事者が就職に関するアドバイスやトレーニングを受けられるところは、福祉的なサービスも含めると少なくないことがわかりました。
でも、取り組み内容を見てみると、これだけでは就業マッチングが進まないなと感じました。多くのサービスは、前提として「求職者である障害のある当事者」だけが変われば就職することできる、就業が増えると考えていることが多い印象でした。しかし、私は20年あまり企業側の仕事をしてきましたが、障害のある学生が変わらなくても、企業での活躍可能性が高い学生は少なくないと感じていて、それでも就業に繋がっていない現状をふまえると、学生当事者だけを支援するのではなく、むしろ、企業側が変わるように支援しなければ雇用には繋がらないと感じていました。
例えば、障害や病気が理由で、朝が起きられないという学生がいたとします。一般的な企業では、就業するのは難しいと考えられがちです。でも、「いいじゃん、昼から働いても。こんなに活躍可能性があるのに・・・。」って、私は思うのです。 そういう学生にも、一律に9時に出社することを求めてしまう。
無理のない時間から働ければいいのにと私は思いますが、多くのサポートは、毎日9時に出社できるようにすることをすごく頑張っているように思います。頑張るのは、そこだけじゃないよねと思うのです。もう少し柔軟な採用や雇用を考えてほしい。だから、現在は企業の方にカジュアル面談をする機会を増やし、学生当事者と直接対話する時間を増やすことに取り組んでいます。
カジュアル面談では、障害のある学生、企業、そして私も同席して行います。カジュアル面談を希望する学生は、全員ハンドルネームを使って、本名や連絡先をクローズにしたままで、自己PRや障害に関することをプロフィールシートにまとめます。企業は、当該プロフィールシートを確認し、双方の同意が得られた場合に面談をします。
面談をしていると、企業がもう少し柔軟な対応をしてくれると雇用が広がるのに・・・と思う場面がよくあります。例えば、学生は数ヶ月に1度は通院する必要があり、日帰りで行くことは難しいので2 日の休暇がほしいということを相談した際、企業からは、「その対応は難しい。」というような杓子定規的な答えが返ってきたことがありました。
でも、私はその会社の制度を把握していたので、「この制度とこの制度を組み合わせれば、特別な対応をしなくても制度の範囲内で実は通院できますよね。」という話をしました。そうすると、企業の方も「あ、それならできますね。」ということになったのですが、なかなかそういう柔軟なやりとりは難しいところが多いなと感じています。
また、学生当事者のことを詳しく知らないにも関わらず、「そんな遠くの病院に行かなくても、近くの病院に行けばいいのでは。」と言われるようなこともありました。詳しく状況を確認する前に、求職者である学生のほうに変わることを要求してしまう。もちろん企業側も全てに対応できる訳ではありませんので、私が間に入りながら、双方の認識の違いを埋めつつ、情報コーディネートしたりしています。
私が普段接している障害のある大学生は、継続して大学に通学し、講義に出席し、単位を取り、卒業することを前提としている学生なので、一般企業で働くことができない学生はいないと考えています。安定就労が難しいのであれば、そもそも大学に通い続けることが難しいですし、単位取得や卒業自体が難しいからです。少なくとも大学を卒業できる学生は、どんな障害であっても、福祉的な観点ではなく経済合理的に考えて、活躍できる場所があるはずだと考えています。
このようなスタンスで学生と接しているので、基本的にはどうやって強みを活かせるのか、活躍できるのかという方針でキャリア支援をしています。しかし、時に就職に向けて懸念に感じることがあるのが、学生の先入観です。保護者の皆さまからの影響も少なくないと感じています。
先日、特例子会社の方と話していてなるほどと思ったのですけれど、海外から発達障害の方を20人ぐらい受け入れてセッションした時に、その方々は例えばコーヒー豆を選別するような仕事をとても前向きに取り組むのだそうです。大卒や大学院卒の方でも「この作業は面白い。」と取り組んでいたりする。でも、日本の学生の場合「こんな仕事、なぜ僕がやらなきゃいけないんですか。」と言ったりするケースも少なくないのだそうです。
自分の強みを知る以前に、コーヒー豆を選別するような仕事は、ある種グレードの低い仕事とみなし、一方で、自分は大学を出ているから、もっとグレードの高い仕事があるはずだという前提に立ってしまっている。そういった学生は、自分で自分を苦しくしてしまっているのではないかという話をしました。
なんか日本の学生の中には、こうあらねばならないと思っているところが強いように思うことがあります。そういったところが変わってくるともう少し良くなるのではないかなと思います。他にも、就職活動をする前から契約社員は嫌だとか・・・。それで、何で嫌なのかと聞いてみると、明確な理由があるわけではなく、なんとなく嫌だということも多いのです。
だからその辺の思い込みや先入観になってしまっているところを、なるべく解消したほうがいいと思っていまして、そういう執着のあるところを抜けて、例えば、契約社員でもいいかなと思うようになると、結果として正社員として採用されたりすることがあるのです。
Q:なるほど。就職をゴールのように捉えてしまって、正社員や少しでも有名なところで行けば幸せになると思い込んでいる方はよく見かけますね。
A:それは、すごくあると感じますね。それは、親御さん世代の価値観が、残ってしまっているからではと思ったりもします。私は、学生には、親戚のおじさんポジションでアドバイスするからって伝えています。私は45歳で、学生は20歳ぐらいですので「私はあなたのおじさんであなた方(学生たち)は、甥っ子、姪っ子だと思ってアドバイスするからね。」と伝えています。
そして、「おじさんはたまに間違ったことを言うかもしれない。おじさんが常に正しいことを言うと思わないでほしい。」とも言っています。絶対に正解を言ってくれるって思われると、こちらもアドバイスしにくいところもあるので、「賛否ある意見だとしても、思ったことそのまま言うね。」といつも伝えています。
だから、キャリア支援の現場ではあまり言われないようなことも、例えば、契約社員は何がダメなんだっけとか、あなたが健康で働くことのほうが大事だから、待遇とかにこだわりすぎないでほしいとかもはっきりと伝えていますね。それで、嫌だとか合わないと思う学生もいて、離れていく学生もいますが、意外にしばらくしてからまた戻ってきたりすることもあります。
Q:大学生の方の障害種別は、どんな感じですか?
A:障害種別は一般には公開しておりません。1番多いのは発達障害ですが、上肢下肢障害や精神障害、聴覚・平衡機能障害、内部障害、吃音、視覚障害など、様々な障害の学生にご利用いただいています。サポートしていると言ってもいろいろな関わり方があり、毎週、定期的に顔をだしてくれる学生もいれば、数回参加しているだけの学生はギリギリ名前と顔がわかるくらいといったこともあります。
Q:GATE-Cは学生さんたちが自分で自ら見つけて、参加してくる感じなのでしょうか。
A:基本的には、全国の大学のキャリアセンターが窓口となるケースが多いですね。月1、2回のご案内を大学にお送りしているので、大学を通じてセミナーやイベントを知り、障害のある学生に参加いただいています。基本的には、大学の教職員の方経由でご案内いただくのが一番多いです。その他には、障害学生の支援室などの学修支援担当者からご案内いただくこともあります。
また、障害学生だけを対象とするのではなく、学生全体に周知してくれる大学からは、大学が障害を把握していない学生が参加することもあります。身体障害は大学生活の中で具体的な配慮を必要とすることが多いので、大学でも把握しているケースが多いですが、精神・発達障害の場合には、学生当事者から大学に伝えていないケースがあります。学修上の特別な配慮や支援は必要ないので低学年次の間は大学には伝えていないが、進路とか就職に直面して迷ったり、相談したりというタイミングで大学に伝えている学生もいます。
Q:学生さんたちは、自分に障害があると気づくのでしょうか。大学入学前にわかっている方が多いのですか?
A:いろいろなケースがありますが、GATE-Cに定期的に参加している発達障害の学生の場合でいうと、大学入学前の時点で発達障害とわかっていたケースは多くはないです。私が聞いている中では、3つくらいの障害を認知するタイミングがあると感じています。まず、1つ目は大学に入学直後のタイミングですね。
高校までは授業スケジュールが決まっていて、どの教室で授業するのかもわかりやすい。でも、大学に入ると、まずは自分で科目を選ばなきゃいけない、教室もバラバラ、更にバイトやサークルが始まるという中で、1日のスケジュールが立てられなくなってしまい、学校に行けなくなってしまう。そこで、「あれ?何か自分に問題があるのではないか・・・。」と自覚して、障害がわかるということがあります。
2つ目は、ゼミなどが始まり、自分の意見や考えをまとめなくてはいけない、発表をする必要があるというときに、話がうまくできないというのが、次のタイミングですね。そのあとは就活のタイミングです。
Q:GATE-Cさんでは、どのような活動をしているのですか。
A:学生向けには、毎月、キャリアセミナーをしています。この中で好評なのが、障害のある方の体調管理や「トリセツ」を扱う外部アプリ「キモチプラス」の使い方です。このアプリには、すでに1万数千人のデータが蓄積されており、例えば発達障害の方で実際に働いている人が、どんなことで悩んでいて、その対策をこのようにしているということがわかるようになっています。
学生たちの中には、自身に必要な配慮希望をうまく伝えられない人が多いですが、このツールを使って、実際の先輩方がどんな配慮を必要として、それを伝えているのかを知ることができます。障害や病気別に知ることができるので、参考にしながら自分の合理的配慮についてまとめて、必要に応じてキャリアセンターに相談に行くという流れを推奨しています。
2024年1月から本格的にセミナーを始めていますが、累計で約100人の学生が参加しています。大手企業から内定をいただいた学生から10月に連絡があったのですが、その学生はこの「キモチプラス」からのレポートをプリントアウトして最終面接に持っていき、配慮事項等を説明したところ内定をいただくことができたそうです。本当にうれしかったですね。
Q:企業では、体調管理を自分でできているかは、とても重要視していますよね。企業にとっては、そのようなツールを活用して体調管理できていますと言われると、とっても安心できますね。
A:そうですよね。でも、多くの学生は体調管理の重要性を認識できていません。セミナー等を通じて重要性とやり方を伝えて、その後に学生が自分でセルフケアできるようになってくると、成長しているな、変化しているなと感じて嬉しくなります。そういう学生を見ていると、大学生は必ずしも卒業後に就労支援機関に行かなくてもいいのではないかと思うことがあります。企業側としては安定就労できる何らかの証明があった方が採用しやすいとは思いますので、大学生活の中で体調管理ができるようになり、それを説明できるようにサポートすることを実践しています。
その他には週2回グループ・リフレクション、略して「ぐるり」と言っていますが、毎週オンラインで集まり、週の振り返りをみんなで行うということをしています。これは、直接、就活とは関係のないテーマも含めて、1人5分程度で、やると決めたこと、実際に行動したこと、それに対する振り返り、次へのアクションという流れでシートを活用して、全員が順番に発表しています。シートには「何を書いてもいいよ」と伝えてあり、1グループは約4人で、1人が発表し終えると、他の3人がコメントしていきます。

さらにGATE-Cさんの取り組みや企業への連携について知りたい方は、後半の続きをお読みください。

————————————————————————-
菅野さんがされている「カジュアル面談」を希望される企業の方は、下記から「ここだね」さんにお問い合わせください。

「カジュアル面談」を希望される企業の方はこちらから

障害のある大学生の方で、GATE-Cで就職やキャリアについての相談がしたい、セミナーやイベントに参加したいという方は、下記から「ここだね」さんにお問い合わせください。

問い合わせを希望される学生の方はこちらから
※ 友だち追加後、「管理人とみーとチャットする」よりお問い合わせください。

スポンサードリンク

障害者雇用にすぐに役立つ無料動画をプレゼント!

期間限定で障害者雇用にすぐに役立つ無料講義をプレゼントしています。ぜひお役立てください。

障害者雇用オンライン講座

今までなかった障害者雇用をゼロから学べるオンライン講座の内容を是非ご覧ください。

0コメント

コメントを提出

メールアドレスが公開されることはありません。

障害者雇用支援サービス

お客様の声

YouTube

Podcast 障害者雇用相談室

書籍

無料メルマガ【企業向け】

無料メルマガ【障害者枠で働く】