なぜ、障害者雇用代行を使うのか?企業が抱える課題と本音を総まとめ

なぜ、障害者雇用代行を使うのか?企業が抱える課題と本音を総まとめ

2025年01月12日 | 障害関連の情報

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2023年以降、「障害者雇用代行ビジネス」の実態を告発する報道が大きな注目を集めています。企業は法定雇用率を達成するために努力していますが、障害者雇用が進まず悩んでいる企業も少なくありません。こうした背景の中で、活用されているのが「障害者雇用代行ビジネス」です。

このビジネスは一見すると、企業の負担を軽減しつつ、障害者に雇用機会を提供するという社会的に意義ある仕組みに見えます。しかし、その実態には課題も多く、必ずしも「共生社会」の実現につながっているとは言えない現状があります。

ここでは、障害者雇用代行ビジネスとはどのようなものなのか、活用する企業の本音、メリットやデメリットについて考えていきます。

障害者雇用代行ビジネスの実態

障害者雇用代行ビジネスは、障害者雇用を自社で行なうことが難しい企業が、外部の企業のサポートを受けて障害者を雇用することです。障害者雇用ビジネスとして、障害者が働くための場として農園や貸しオフィス(サテライトオフィス)などの働く場の提供や、そこで働く障害者の人材紹介、サポートなどを提供するものです。このようなサービスを提供することで、事実上、障害者雇用を代行するものとなります。

農園やサテライトオフィスで働く障害者は、サービスを活用する企業の社員として在籍し、毎月給与が支払われます。つまり、働く場所は職場とは違う場所になりますが、身分としてはそのサービスを活用する企業の所属になります。

このようなサービスを活用する企業には、固定費として、毎月雇用する障害者の給与、農園やサテライトオフィスの賃貸料、管理費等がかかります。加えて、農園やオフィスの利用にあたっての初期費用や採用に関しては人材紹介料がかかることになります。

企業で農園系の障害者雇用ビジネスを活用すると、次のような費用がかかります。

障害者雇用ビジネスの利用にかかる費用の一例
【月額】
・雇用する障害者の給与:11~13万円/1人
・農園利用料等:20万円程度
【初期費用】
・農園初期費用:数百万円
・働く障害者の紹介:40~70万円程度

社会にこの障害者雇用代行ビジネスが認知されるようになったのは、新聞で大きく取り上げられたことがきっかけとなっています。共同通信による2023年1月9日の報道です。

『法律で義務付けられた障害者雇用を巡り、企業に貸農園などの働く場を提供し、就労を希望する障害者も紹介して雇用を事実上代行するビジネスが急増していることが9日、厚生労働省の調査や共同通信の取材で分かった。十数事業者が各地の計85カ所で事業を展開。利用企業は全国で約800社、働く障害者は約5千人に上る。

大半の企業の本業は農業とは無関係で、障害者を雇うために農作物の栽培を開始。作物は社員に無料で配布するケースが多い。違法ではないが「障害者の法定雇用率を形式上満たすためで、雇用や労働とは言えない」との指摘が相次ぎ、国会も問題視。厚労省は対応策を打ち出す方針だ』

出典:障害者雇用「代行」急増 法定率目的、800社利用(共同通信、2023.1.9)

なお、共同通信(2023年1月)の記事では、利用企業は全国で約800社、働く障害者は約5000人に上ることが示されました。しかし、その後、厚生労働省が実態調査した結果では、障害者が働く場や業務を企業に提供する雇用代行ビジネス(農園だけでなく、サテライトオフィスも含む)に関し、利用企業は約1000社、働く障害者は約6500人以上いることが示されています。なお、この調査によるとビジネス事業者は23法人あり、就業場所として運営する農園は全国で91カ所となっていることが明らかになっています。

出典:いわゆる障害者雇用ビジネスに係る実態把握の取組について(厚生労働省)

農園・サテライトオフィスを利用する企業の本音

法定雇用率未達成で生じる企業リスク

企業には、従業員数に応じて一定数の障害者を雇用をすることが「障害者雇用促進法」によって定められています。これは「法定雇用率」と呼ばれるもので、現在の障害者法定雇用率は2.5%、つまり従業員40人に対して1人の障害者を雇用することが求められています。また、2026年の7月からは従業員37.5人に対して1人の割合での雇用が求められることになります。

このような法定雇用率が定められているのは、障害のある人が職業生活を通じて自立し、社会で平等な機会を享受できることを目的とした障害者雇用促進法があるからです。そして、障害者が適切な雇用機会を得られるよう支援するとともに、企業に対して障害者雇用の義務を課しています。

また、雇用率が未達成の場合には、障害者雇用納付金が徴収されます。この制度は、障害者雇用は企業が共同して果たしていくべき社会連帯責任の理念に基づき、事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図るためのものです。徴収された納付金は、各種助成金や障害者雇用調整金、報奨金などの原資になっています。

ほとんどの企業では、障害者雇用は社会的役割の一つであることを理解し、加えて多様な人材を活かすような努力をしています。しかし、それが難しいような場合には、このような代行ビジネスを活用することを検討する企業もあります。障害者雇用ビジネスが注目を集める中で、このサービスを活用している企業にはさまざまな本音があります。法定雇用率の達成を目指す中での肯定的な側面だけでなく、利用することで生じる懸念や葛藤もあります。そのいくつかを見ていきます。

代行ビジネス活用企業の声:肯定的な面と懸念点

肯定的な意見

1. 法定雇用率を効果的に達成したい

障害者雇用では法律で法定雇用率があるため、企業の最大の目的となるのは「どうしたら法定雇用率を達成できるのか」という点になりがちです。

「障害者を直接雇用するための環境整備や教育には、時間とコストがかかるため、外部に任せた方が効率的。」

「法定雇用率を満たさないと企業名が公表されそうなので、まずは外部サービスを利用して要件を満たしたい。」

なお、障害者雇用が達成できていない企業には、ハローワークや労働局から障害者雇用率達成指導や「障害者雇用雇入計画作成命令」が出されるほか、企業名公表になることがあります。また、不足している法定雇用人数に応じた障害者雇用納付金を納める必要があります。

2. ノウハウ不足を補いたい
障害者雇用に関する知識や経験が不足している企業にとっては、障害者を雇用することへの不安やその対応に専門的な知識がある人の力を借りることは大きな安心材料となることがあります。

「障害者雇用の経験や知識が社内にないため、専門家に依頼した方がスムーズ。」

「どう進めればよいのかわからないので、経験のあるところ(人)に頼りたい。」

このように、障害者雇用の「初めの一歩」を外部の力で支えたいと考える企業は少なくありません。

3. 他の業務に集中したい
障害者雇用は、一般の雇用よりも導入するまでにリソースがかかることが多いです。そのため企業の人的資源を消耗するのではなく、外部委託によってリソースを最適化し、他の重要課題に集中したいと考える企業もいます。

「障害者雇用にかかるリソースを削減し、他の課題に集中できるのは助かる。」

「外部委託することで人事部門の負担が軽減されるのはありがたい。」

実際に障害者代行ビジネスを活用している企業の声です。

「障害がある人ができることを考えながら、1人1人の仕事を社内で探さないといけない状態。農園での受け入れしかなかった」

こう話すのは、愛媛県今治市に本社がある造船大手「今治造船」の今治人事総務グループ長篠原敬周(よしちか)さん。農園を月に数回訪れ、同社が雇用している障害者14人をフォローしている。

企業は従業員に占める障害者の雇用率が2・0%を満たすよう法律で定められている。同社が農園を利用したきっかけは昨年、この雇用率を満たせない可能性があると知ったことだった。

製造部門は危険な作業があり、受け入れは困難。総務などの部門では既に働いていて、人員を増やすことは難しかった。

雇用率を満たさず、改善がみられない場合は、企業名の公表もある。「会社の信用を落としかねない」と、上司を説得して利用を決めた。

出典:【愛知】豊明に障害者向け農園 雇用率改善へ企業利用進む(中日新聞)

懸念やネガティブな意見

1. コストパフォーマンスへの疑問
外部サービスは便利ですが、その費用対効果には疑問を抱く企業もあります。
「毎月サービス利用料を払うのは、長期的に見て負担が大きい。」
「この費用が本当に障害者の雇用改善につながっているのか疑問に感じる。」

2. 形式的な対応にとどまっている
外部委託による雇用は形式的な対応に見えることがあり、企業として社会的責任を果たしているのかと、本来の障害者雇用に対する意義が問われることがあります。

「形だけの雇用になってしまい、企業として障害者雇用の意義を十分に果たせていない気がする。」

「外部委託していると、組織内での障害者雇用への意識改革が進まない。」

3. イメージリスクへの懸念
最近では、外部委託型の障害者雇用が批判の対象になっていることから、このような形での雇用が企業イメージに影響を及ぼすと考える企業もあります。

「メディアや社会から『障害者雇用を形式的に行っている』と批判されるリスクが気になる。」

「報道で取り上げられると、企業イメージが大きく損なわれる可能性がある。」

4. 従業員間での理解不足
外部委託による障害者雇用は、社内での共生意識の醸成を妨げる可能性があります。

「障害者雇用が外部委託されているため、社員の中で障害者への理解が進まない。」

「社内で障害者と直接関わる機会がなく、共生社会の理念が浸透しない。」

葛藤する意見

1. 短期的解決と長期的課題の狭間で悩む
法定雇用率達成という短期的な課題はクリアできても、長期的な障害者活躍の仕組みづくりへの課題は依然として残り、問題を先送りしていると感じる企業もあります。

「目の前の法定雇用率達成はクリアできるが、自社内で障害者が活躍する仕組みが作れず、それに関わる人材も育たない。」

「現状を乗り切るためには必要だが、これが最善の方法ではないことも感じている。」

2. 障害者本人の満足度への不安
障害者自身が働きやすさやキャリア形成を感じられるかという点についても、不安が残ります。

「雇用された障害者が本当に満足して働けているのか心配。」

「委託先の環境でスキルやキャリアを積めるのか疑問に思う。」

障害者本人や家族の満足度は?

なお、農園型ビジネスに関しては、当事者やその家族からは肯定的なものと否定的なものと両方の意見が見られています。作業が単純で、やりがいを感じられない、社員と感じることはないという意見もある中、安定した企業に入社できてありがたい、給料が福祉作業所よりも高くてうれしいという意見も多く見られます。

サテライト(農園型を含む)で働いたことのある人の調査結果によると、満足度は次のようになっています。
【在職中】
・とても満足 21.1%
・おおむね満足 42.1%
・どちらとも言えない 17.1%
・やや不満 11.8%
・とても不満 7.9%

【離職済み】
・とても満足 0%
・おおむね満足 20%
・どちらとも言えない 26.7%
・やや不満 13.3%
・とても不満 40%

出典:サテライト型(農園型含む)障害者雇用に関する調査研究(日本財団)

障害者雇用代行ビジネスを活用するメリットとデメリット

ここまで障害者代行ビジネスについて見てきた中で、もう一度、企業にとっての雇用ビジネスを活用することのメリット、デメリットについて考えてみます。

メリット

・法定雇用率の迅速な達成
障害者雇用ビジネスを利用することで、法定雇用率をスピーディーに達成できる点は企業にとって大きな利点です。自社で直接雇用環境を整備する負担を軽減できるため、時間や労力を節約できます。

・他の業務課題に集中するための社内資源の確保
障害者雇用を代行業者に任せることで、社内リソースを他の業務や課題解決に振り向けることが可能になります。特に、中小企業にとっては、人材や時間を効率的に活用できる点が魅力的です。

・障害者雇用のノウハウ不足の解消
障害者雇用に関する知識や経験が不足している企業にとって、外部の専門知識を活用できることは有益です。特に初めて障害者を雇用する企業にとっては、スムーズな導入が可能になります。

デメリット

・コストの継続的な発生
障害者雇用ビジネスを利用するための契約費用や運営コストが、企業にとって長期的な負担となる可能性があります。利益を生み出す業務ではない場合、コストパフォーマンスに疑問を抱く企業も少なくありません。

・組織への貢献に繋がりにくい可能性
外部での雇用が中心となる場合、企業の中で障害者が働く機会が減り、障害者雇用に対するマネジメントや経験値が社内の人材の中に蓄積しません。そのため継続的なコストがかかり続けることになります。また雇用する障害者に関しても、特に農園などの業務で採用した場合には、物理的、能力的な面から業務の配置転換がとても難しくなります。

・社会的批判による企業イメージ低下のリスク
障害者代行ビジネスに対する見方が変化している中で、障害者雇用を数合わせでおこなっていると見なされて、企業のイメージダウンにつながるリスクがあります。特に、雇用の「質」が問われる現代において、このリスクは軽視できません。

今後の障害者雇用で企業が考えるべきポイント

障害者雇用の行政指導などを受けている場合などは、とにかく早く雇用率を達成しなければならないと、このような障害者雇用サービスを考える必要が生じることがあるかもしれません。でも、もう一方で考えておかなければならないのは、継続的に活用することが、本当に組織にとってよいことなのか?という点です。

障害者雇用は、「障害者を雇用する」ことだけに注目されがちですが、障害者を雇用することによって、組織が大きく変化することは少なくありません。例えば、障害者社員のマネジメントを任せた社員の成長を感じたり、社内で一緒に障害者が働くことにより周囲の人の働く姿勢が変化した、周囲の社員への気遣いや配慮が今までよりも増えたなどです。

このように、組織で障害者雇用のポジショニングを捉え直すことで、社員が今よりも活躍できる体制づくりに繋がったり、社員一人ひとりが自分の役割を認識するきっかけとなったり、会社の活性化・組織風土の変革に役立ったという声も聞かれます。

確かに障害者雇用は、一般の雇用よりも時間もマンパワーもかかります。しかし、障害者当事者も、はじめは補助的、サポート的な業務を担っているかもしれませんが、毎日仕事に取り組んでいると、スキルや経験値は上がっていきます。このような障害者雇用は、「コスト」ではなく「投資」になっていきます。

最近、持続的な企業価値の向上に向けて、経営戦略と人材戦略を連動させる「人的資本経営」に取り組む企業が増えています。障害者雇用もこのような考え方から捉え直すと、違ったアプローチや取り組みが見えてきます。しかし、農園での障害者雇用において、このように投資や資産になりうる人材育成および活用を行うことは非常に難しいでしょう。

まとめ

障害者雇用代行ビジネスは、企業が法定雇用率を達成しつつ、障害者に就労機会を提供するという点で一見、双方にとって有益な仕組みのように見えます。しかし、その裏には、「形式的な雇用」に終始してしまい、真の共生社会の実現にはつながりにくいという課題も潜んでいます。
企業が法定雇用率を満たすためにこのサービスを活用する背景には、ノウハウ不足やコスト負担、環境整備の難しさなどがありますが、一方では社会的責任を果たそうとする意識の現れと考えることもできるでしょう。
障害者雇用代行ビジネスの活用を検討する際には、その実態やコスト構造をしっかりと理解し、中長期的な視点から考えていくことが大切です。一般的に障害者雇用は、「障害者を雇用する」ことだけに注目されがちですが、障害者を雇用することによって、組織活性化などに役立つ事例は少なくありません。持続的な企業価値の向上に向けた取り組みとして、障害者雇用をどのように位置づけるのかは、組織に大きな影響を及ぼします。

参考

障害者代行ビジネスとはどんなもの?企業にとってのメリットは?

「障がい者雇用ビジネス」とは? サービスの仕組みと利用実態を解説【前編】(HRプロ)

「障がい者雇用ビジネス」とは? 企業にとってのメリットは何か【後編】(HRプロ)

障害者雇用「代行ビジネス」と呼ばないで 受け皿の農園を展開する業者の本音(弁護士ドットコム)

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