厚生労働省では、2021年から3年間の障害福祉の基本指針について、社会保障審議会障害者部会で検討されてきました。障害福祉計画の基本指針は、障害福祉計画の計画期間を3年としていて、これに沿って都道府県・市町村は3年ごとに障害福祉計画を作成しています。
今回の社会保障審議会障害者部会で審議されてきた第5期障害福祉計画には、どのような内容が検討されてきたのか、また障害者雇用に関わる点として検討されてきた、A型B型事業所からの一般就労への移行、就労定着支援事業の活用について、中心に見ていきたいと思います。
障害福祉の基本指針
基本指針見直しの主なポイントとしては、社会保障審議会障害者部会において、次の点が取り上げられています。
①地域における生活の維持及び継続の推進
②精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築
③福祉施設から一般就労への移行等
④「地域共生社会」の実現に向けた取組
⑤発達障害者等支援の一層の充実
⑥障害児通所支援等の地域支援体制の整備
⑦障害者による文化芸術活動の推進
⑧障害福祉サービスの質の確保
⑨福祉人材の確保
出典:障害福祉計画及び障害児福祉計画 に係る基本指針の見直し(厚生労働省)
障害福祉の基本指針の見直しの時期
障害福祉計画の基本指針は、障害福祉計画の計画期間を3年としており、これに沿って都道府県・市町村は3年ごとに障害福祉計画を作成しています。今回の社会保障審議会障害者部会では、第5期障害福祉計画について審議されてきました。
出典:基本指針の作成スケジュール(厚生労働省)
福祉施設から一般就労への移行に関する成果目標及び活動指標
審議会の中で扱われた障害者雇用に関わる点は、福祉的就労から一般就労への移行等に関することです。この点を詳しく見ていくことにします。
就労系サービスは、平成30年度障害福祉サービス等報酬改定がおこなわれています。一般就労への定着実績や工賃実績等に応じた報酬体系が取り入れられ、工賃・賃金向上や一般就労への移行に重点がおかれてきましたが、この取組を一層促進させていくことが目標に掲げられています。
また、精神障害者の雇用拡大にともない職場定着が課題となったことから、平成30年4月から就労定着支援事業が進められてきました。この就労定着支援事業の利用促進とともに障害者が安心して働き続けられる環境整備を進めていくことや、地域共生社会の実現に向け、農福連携等の推進が求められています。この点に関しても議論がおこなわれてきました。
その他には、多様なニーズへの対応として、大学等在学中の学生や高齢者に対する就労支援や就労継続支援事業の工賃向上の取組として各都道府県による「工賃向上計画」施策を進めることが盛り込まれています。
第5期障害福祉計画にむけて就労に関することで検討されてきたこと
第5期障害福祉計画にむけて、福祉施設から一般就労への移行等に関することで検討されてきたことは、次のような点があります。
・一般就労への移行
・就労移行支援事業の利用者数
・就労移行支援事業所の就労移行率
・就労定着支援事業
一般就労への移行に関しては、企業における障害者雇用も進んでいるため、就労移行支援事業所からの就職は引き続けて進めていくことは変わりませんが、今回は就労継続支援からの一般就労を目指した取り組みも行っていく案が出され、就労継続支援A型及び就労継続支援B型についても目標を掲げてみることが検討されました。
また、就労定着支援事業については、利用状況を見ながら、更なるサービス利用を促すため、利用者数を成果目標として追加することや、定着率の数値目標などについて検討されてきました。
2021年からの障害福祉の基本指針成果目標及び活動指標
一般就労への移行者数に関する目標にA型B型事業所も対象に
まず、全体の流れとしては、令和5年度までに、令和元年度実績の1.27倍以上の一般就労への移行実績を達成することを目標としています。就労移行支援については、一般就労への移行の役割を果たすものとして、令和5年度までに、令和元年度実績の1.30倍以上の移行実績を達成することが目標とされています。
これに加えて、就労継続支援A型及び就労継続支援B型についても目標値が設定されました。ただ、A型事業所、B型事業所の利用者は、一般就労が難しいために福祉就労していること、就労に向けた訓練等を実施する機関であることから、A型は1.26倍、B型は1.23倍を目指すこととしています。
この中には、A型は一般就労への移行が着実に上昇していくと見込まれること、B型については、移行率は現状維持としても、利用者が増加していくことが見込みとして想定されているようです。
就労定着支援事業に関する目標
就労定着支援事業は2018年度からスタートして、まだ2年経過していないこともあり、利用者数は8,607人(令和元年6月)となっています。就労移行支援事業所等を通じた一般就労への移行者数が15,957人(平成29年度実績)となっていることから、約半数くらいが活用していると想定されます。
そして、就労定着支援事業の利用者については、令和5年度までには就労移行支援事業等を通じて一般就労に移行する中の7割が就労定着支援事業を利用することを目標としています。また、就労定着支援事業の就労定着率については、就労定着支援事業所の8割以上の事業所に対して、就労定着率が全体の7割以上とすることを目標値としています。
就労定着支援利用するまでに、就労移行支援事業所でも就職してから半年はフォローしますので、現時点で就労定着サービスを活用しない人が半数くらいなのは、それまでに就労移行支援事業所の定着が成果を出しているということも考えられますし、単に定着支援サービスの認知がされていないだけとも考えられますが、もう少し時間をかけて見ていく必要があると思っています。
また、利用者についての数字目標も大事ですが、定着支援サービスがうまく回るには、相談する場である就労定着支援事業所に対して、サービスを受ける障害者側が相談したい、信頼できると感じる必要があるでしょう。就労移行支援事業所と就労定着支援事業所が同じ事業所の場合には活用もしやすいと思いますが、別の事業所の場合には、その情報共有や引き継ぎなども必要となってくると感じています。そのあたりのことも今後、丁寧に評価していくことが検討されるといいなと思います。
参考資料:障害福祉計画及び障害児福祉計画 に係る成果目標及び活動指標について(厚生労働省)
まとめ
社会保障審議会障害者部会で審議されてきた第5期障害福祉計画の概要について、そして特に、障害者雇用に関わる点として、A型B型事業所にも一般就労への移行者数に関する目標値が定められること、就労定着支援事業の活用について見てきました。
A型B型事業所を見学すると、一見すると一般就労でも大丈夫なのでは・・・と感じる方を見かけることもあります。事業所が囲い込みをせずに、一人ひとりの可能性や生活を長い目で見ていくためにも、今回のような目標値の設定は変化するための一歩になるのではと感じます。一方で、やはり一般就労が難しく継続支援を活用している方も多くいます。この辺のバランスは難しいところがあると思うので、事業所が全体の方針を決めて事業所全体で共有しながら、慎重に進めて行く必要があるでしょう。
就労定着支援事業所に対しては、目標値が定められることになりました。就労定着支援事業所の活用に関しては、基本的に就労移行支援事業所から一般就労に移行した人が対象となっていますが、実際の就労の場では、就労移行支援事業所以外からの雇用もあります。そして、課題が見られたり、相談を受けることが多いのは、就労移行支援事業所以外から採用した特別支援学校の卒業生や支援機関をもたない方たちの職場定着だったりします。どこに相談したらよいのかわからない、サポートが受けにくい障害者を企業が雇用していくためにも、就労定着支援の活用や対象者についてはさらに議論を深めていくことが必要だと感じています。
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