発達障害と期待値のズレ|仕事の基準をどう見直すか

発達障害のある社員に「これくらいできるはず」と感じたら|期待値と仕事の基準を見直す

2025年04月22日 | 判断とマネジメントの構造

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「障害者雇用は、配慮の話ではなく、設計の話だ。」

2026年8月31日更新

発達障害のある社員と仕事をしていて、「これくらいはできると思っていた」「説明したのに、なぜ期待した通りにならないのだろう」と感じることがあるかもしれません。

任せた仕事が想定した水準まで仕上がらなかったり、以前できていたことが別の仕事ではうまく進まなかったりすると、本人の能力や意欲に原因を求めたくなることもあるでしょう。

しかし、ここで一度確認したいのが、会社側の「これくらいできる」という基準です。期待値のズレは、本人への期待が高すぎる・低すぎるという問題だけではありません。会社が「何を、どの水準まで、いつまでに求めているのか」が具体的に共有されていないことで起きることもあります。

この記事では、発達障害のある社員に「これくらいできるはず」と感じたとき、本人の能力だけを問題にするのではなく、仕事の内容・完成基準・役割・支援の方法から期待値を見直す考え方を整理します。

この記事でわかること
  • 「これくらいできるはず」という期待がずれる理由
  • 「できる・できない」ではなく、仕事の基準を見る考え方
  • 説明したことと、完成基準が共有されたことの違い
  • 期待を下げることが必ずしも配慮ではない理由
  • 本人・管理職・人事で期待値をそろえる視点

「これくらいできるはず」がずれるのは、なぜか

仕事を任せるとき、私たちはさまざまな前提を置いています。「この経験があるなら、この程度はできるだろう」「一度説明したから、次からは自分で進められるだろう」「前回できたから、今回も同じようにできるだろう」といった期待です。

こうした期待を持つこと自体が問題なのではありません。仕事を任せる以上、会社が一定の成果を求めるのは当然です。

ただし、管理職が頭の中で考えている「できる」と、本人が理解している「できる」が同じとは限りません。例えば、「資料を作成してください」という一つの仕事でも、既存資料を修正するのか、一から構成を考えるのか、必要な情報を自分で集めるのか、関係者への確認まで含むのかによって、求められる内容は大きく異なります。

「できるはずなのに、できない」と感じたときには、まず会社側が何を「できる」と考えていたのかを具体化する必要があります。

「できる・できない」ではなく、どこまでを求めているのかを見る

社員の仕事を「できる」「できない」の二択だけで評価すると、どこで期待と実際の仕事がずれているのか分かりにくくなります。

例えば「データ入力ができる」と言っても、決められた項目を入力するところまでなのか、入力内容の誤りを自分で見つけて修正するところまでなのか、例外があったときに判断するところまでなのかで仕事は違います。

同じように、「電話対応ができる」「資料作成ができる」「報告ができる」といった表現にも、いくつもの工程や判断が含まれています。

会社が求めているのが、正確さなのか、スピードなのか、状況に応じた判断なのか、関係者との調整まで含むのかを整理すると、「本人ができない」と一括りにしていたものが、別の見え方になることがあります。

期待値を調整する前に、「この仕事では何を、どこまでできることを求めているのか」を明確にすることが重要です。

説明したことと、仕事の基準が共有されたことは同じではない

「何度も説明したのに伝わらない」という悩みもよくあります。しかし、仕事の手順を説明したことと、完成した状態について同じ認識を持てていることは別です。

例えば、「金曜日までに資料をまとめてください」と伝えていても、どの程度の情報量が必要なのか、どの段階で上司に確認するのか、何をもって「提出できる状態」とするのかまで共有されていない場合があります。

本人は「指示された内容を終えた」と考えている一方、上司は「当然ここまで確認して提出すると思っていた」と考えているかもしれません。

この場合、問題は単に指示が伝わらなかったことだけではありません。仕事の完成基準が、管理職の中では暗黙の前提になっていた可能性があります。

高齢・障害・求職者雇用支援機構の発達障害者雇用マニュアルでも、作業指示を分かりやすくすることや、仕事の優先順位を明確にすることなどが職場での工夫として紹介されています。

重要なのは、発達障害があるから特別な指示を出すということではなく、本人が仕事を進めるために必要な基準が共有されているかを見ることです。

以前できていたから、今の仕事もできるとは限らない

「あの仕事はできたのだから、これもできるはず」と考えることがあります。

しかし、仕事の名称や分野が似ていても、求められる内容が同じとは限りません。例えば、決められた手順で行う業務から、自分で優先順位を決める業務へ変われば、判断する場面が増えます。

担当業務そのものは大きく変わっていなくても、後輩への指導が加わったり、複数案件を並行して担当するようになったり、顧客との調整が増えたりすれば、仕事の複雑さは変わります。

会社側では「少し役割が広がっただけ」と考えていても、本人に求めている仕事の条件が大きく変化している場合があります。

本人の能力が変わったのかと考える前に、会社が求めている仕事そのものが変わっていないかを確認することも必要です。

期待を下げることが、配慮ではない

発達障害があると分かると、「難しい仕事は任せない方がよいのではないか」「期待しすぎない方が本人のためではないか」と考えることがあります。

しかし、診断名だけを理由に一律に期待水準を下げれば、本人ができる仕事や成長の機会まで狭めてしまう可能性があります。

反対に、本人が実際には大きな負担を感じているのに、「他の社員も同じ条件だから」と方法を変えないことが適切とも限りません。

ここで分けて考えたいのが、求める成果と、その成果に至る方法です。例えば、会社が求める成果が「正確なデータを期限までに提出すること」であれば、途中でチェックリストを使う、優先順位を確認する、途中確認のタイミングを設けるといった方法を調整しても、求める成果そのものが変わらない場合があります。

一方、仕事の性質上、変更できない条件もあります。「期待を下げるかどうか」ではなく、「何を成果として求め、そのための方法をどこまで調整できるのか」を分けて考えることが重要です。

雇用分野の合理的配慮についても、厚生労働省は、障害のある労働者が能力を有効に発揮するうえで支障となっている事情を改善するために必要な措置として位置づけています。

ただし、具体的な合理的配慮の考え方については、この記事では詳しく扱いません。この記事では、その前段階として「会社が何を求めているのか」を整理することに焦点を当てます。

本人との面談では「期待外れだった」ではなく、仕事の差を確認する

期待した仕事にならなかったとき、「もっとできると思っていました」「これくらいはできると思っていた」と本人へ伝えたくなることがあります。

しかし、この伝え方では、本人は何を変えればよいのか分かりません。必要なのは、期待そのものを伝えることより、実際の仕事との差を具体的にすることです。

例えば、会社としてはどこまでの完成度を求めていたのか、現時点ではどこまでできているのか、どの工程で差が生じているのかを確認します。

そのうえで、本人が基準をどのように理解していたのか、仕事を進める中で何が難しかったのかを確認すると、次に見直す点が分かりやすくなります。

「あなたは期待に届かなかった」という評価ではなく、「この仕事では、この基準との間に差がある」という事実から話すことが重要です。

本人・管理職・人事で、期待している役割が違うこともある

期待値のズレは、本人と直属上司の間だけで起きるとは限りません。

例えば、管理職は「この程度までは本人に任せたい」と考えている一方、人事は「まだ手厚いフォローが必要」と考えていることがあります。本人自身は「すでに一人で任されている」と理解しているかもしれません。

それぞれが別の前提を持ったまま仕事を進めると、対応する人によって求める水準が変わったり、「前の上司はやってくれた」「人事からは違う説明を受けた」といった混乱が生じたりします。

こうした問題は、本人への説明を増やすだけでは解決しません。会社として、本人にどの役割を任せ、どこまでを本人の判断にし、どこから支援や確認を入れるのかを共有する必要があります。

期待値は、個々の管理職の感覚ではなく、仕事と役割の基準として扱うことが大切です。

期待値は、一度決めたら固定するものではない

仕事を任せる前にすべてを正確に見極めることはできません。実際に仕事をしてみることで、「想定していたより一人で進められる」「この工程では確認が必要」「別の仕事では負担が大きい」といったことが分かる場合があります。

そのため、最初に決めた期待値を固定する必要はありません。仕事を任せ、実際の成果を見る。本人と認識を確認する。必要であれば仕事の内容や進め方を調整する。その後、改めて仕事がどう変化したかを見る。

この繰り返しによって、本人に任せられる範囲が広がることもありますし、逆に仕事の分け方を見直した方がよいと分かることもあります。

期待値を調整するとは「できない人として扱う」ことではなく、実際の仕事を見ながら、求める成果と必要な方法を現実に合わせて更新していくことです。

「これくらいできるはず」と感じたとき、自社ではどうでしょうか
  • 「できる」の意味を、具体的な仕事の基準にしていますか
  • 期限だけでなく、完成した状態も共有していますか
  • 以前と比べて、本人に求める仕事や判断が増えていませんか
  • 求める成果と、仕事の進め方を分けて考えていますか
  • 本人・管理職・人事で、期待している役割がずれていませんか
複数の項目で迷う場合は、「本人にどこまで期待するか」だけでなく、「会社として何を、どの水準まで求めているのか」から整理してみるとよいでしょう。
「この人にどこまで任せるか」を、管理職の感覚だけにしないために
「ここまでできると思っていた」「どこまで支援すればよいのか分からない」「管理職によって求める水準が違う」といった問題は、本人への接し方だけでは解決しにくいことがあります。
チームを動かすマネジメント研修では、障害者雇用のケースも含め、多様なメンバーが働く職場で、何を成果として求め、どこまでを本人に任せ、どこから管理職やチームが関わるのかを整理します。個人の感覚だけに頼らず、仕事と判断の基準をチームで共有できる状態をつくることを目指します。

発達障害のある社員への期待値についてよくある質問

Q:「これくらいできるはず」と期待すること自体が問題なのでしょうか

期待を持つこと自体が問題なのではありません。

会社が仕事を任せる以上、一定の成果を求めることは必要です。重要なのは、その「これくらい」が管理職の感覚だけになっていないか、本人にも分かる仕事の基準として共有されているかを確認することです。

Q:発達障害のある社員には、仕事の要求水準を下げた方がよいですか

診断名だけを理由に、一律に要求水準を下げる必要はありません。

まず、その仕事で何を成果として求めているのかを確認します。そのうえで、本人が仕事を進める際に支障となっている部分があれば、仕事の進め方や環境など、調整できる方法がないかを検討します。

Q:何度説明しても、期待した仕事にならない場合はどうすればよいですか

説明の回数を増やす前に、本人と会社で完成基準が一致しているかを確認します。

また、どの工程で仕事が止まっているのか、優先順位や期限、途中確認の方法などが明確になっているかを見ることも重要です。指示や伝え方そのものについては、発達障害のある社員への伝わる指示・注意の考え方もあわせて確認するとよいでしょう。

Q:本人は「できています」と言いますが、上司の評価と違います

「できている」「できていない」という評価をぶつけ合うのではなく、具体的な成果基準に戻って確認します。

例えば、期限、正確さ、確認範囲、報告のタイミングなど、何をもって仕事が完了したとするのかを具体化すると、どこに認識差があるのかが分かりやすくなります。

Q:合理的配慮をすると、他の社員より要求水準を下げることになりますか

合理的配慮は、必ずしも仕事の成果水準を下げることを意味するものではありません。

仕事を行ううえで支障となっている事情に対して、方法や環境を調整することで、求める成果を実現できる場合があります。一方で、仕事上変更できない条件もあるため、何を求める成果とし、何を調整できるのかを個別に確認する必要があります。

まとめ|「期待値のズレ」を、本人への評価だけで考えない

発達障害のある社員について、「これくらいはできるはず」「以前できたのだから、今回もできるはず」と感じることがあります。しかし、期待した仕事にならなかったとき、本人の能力や意欲だけを原因にする必要はありません。

会社が何を、どの水準まで求めていたのか。その基準は本人と共有されていたのか。以前と比べて仕事内容や判断の量が変わっていないか。求める成果と仕事の進め方を分けて考えられているか。

こうした点を確認すると、「できない」と見えていた問題の中に、仕事の基準や役割のズレが見つかることがあります。

もちろん、基準を明確にすればすべての仕事ができるようになるわけではありません。実際に仕事をした結果、本人に合わない業務や、会社として変更できない条件が分かることもあります。

だからこそ、一度決めた期待を固定せず、実際の仕事を見ながら見直していくことが重要です。

「これくらいできるはず」という期待が外れたとき、本人への期待を上げ下げする前に、会社が「何を、どの水準までできることを求めているのか」を確認する。

期待値のズレを、人への評価ではなく仕事の基準の問題として捉え直すことで、本人にも管理職にも分かりやすい仕事の任せ方につながります。

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期待した仕事にならないときには、本人への期待だけでなく、指示の伝え方、仕事そのものの設計、合理的配慮、判断基準まで分けて考えると、どこを見直せばよいのか整理しやすくなります。
仕事の基準は決まっているものの、指示や注意がうまく伝わらない場合に、具体的な伝え方や確認方法を考えたい方へ。

仕事で支障が生じているときに、何を調整できるのか、合理的配慮を診断名ではなく仕事との関係から考えたい方へ。

「この人にどこまで任せるか」という個別判断の前に、会社として仕事・役割・期待する成果を整理したい方へ。

管理職によって「できている」の基準が違ったり、担当者ごとに求める水準が変わったりするときに、組織として判断基準を整理する視点を確認できます。

参考資料・一次情報

コミック版5 障害者雇用マニュアル 発達障害者と働く(高齢・障害・求職者雇用支援機構)
雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮(厚生労働省)

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