新型コロナウイルスの影響が出始めてから、約半年が経過しようとしています。一般的に障害者雇用は、景気の動向などにも左右されにくく、リーマンショック(平成20年)のときも法定雇用率の調整が行われることはありませんでした。
しかし、今回の新型コロナの影響はとても大きく、障害者雇用の現状はどのようになっているのかと不安を抱えている企業や、雇用されている障害者も少なくありません。
7月に開催された第 97 回 労働政策審議会障害者雇用分科会の資料を元に、障害者雇用の受けている新型コロナの影響について見ていきたいと思います。
新型コロナウイルス感染症による障害者雇用への影響
障害者雇用率は、社会連帯の理念に基づいて障害者の雇用機会を確保するため、事業主に対して平等に課された義務とされてきました。そして、民間企業に法定雇用率が義務化された昭和51年以降、どのような社会・経済環境の中にあっても、法定雇用率は、公労使・障害者代表の合意のもとで、計算式の結果に基づき実施されてきました。
これは、平成20年のリーマンショックのときにも、同様の方法が取られており、法定雇用率の引下げ等は行われていません。
また、新型コロナウイルス感染症の影響に対しては、雇用調整助成金の特例措置を含め、雇用の維持と事業の継続に関する各種支援措置が講じられていることや、ハローワーク業務統計や関係団体・企業からの回答を見ると、新型コロナウイルス感染症による障害者雇用への影響が一定程度見られるものの、実雇用率や法定雇用率達成企業割合、今後の見通しが堅調であり、法定雇用率0.1%引上げを猶予・凍結する状況にはないと考えられているようです。
ハローワーク業務統計
ハローワーク業務統計から、障害者の職業紹介等の状況について見ていきたいと思います。
この統計結果からは、 解雇者数、求人数、新規求職申込件数、就職件数及び就職率のいずれについても、前年同期と比べて悪化している状況は見られます。しかし、一般労働者と比較すると、障害者の就職件数や就職率の減少幅は、小規模に収まっていることがわかります。
( )内数値は対前年差・前年比
出典:第 97 回 労働政策審議会障害者雇用分科会資料(厚生労働省)
関係団体・企業の協力による障害者雇用状況報告
関係団体・企業の協力による障害者雇用状況報告(令和2年6月1日現在)を見ていきましょう。
全国障害者雇用事業所協会(全障協)と、障害者雇用企業支援協会(SACEC)を通して、各会員企業に対し、障害者雇用状況報告 (令和2年6月1日現在)の事前報告※1を依頼したところ、121社(企業全体ベース90社、特例子会社単体ベース31社)からの回答が得られました。
なお、今年度の障害者雇用状況報告は、新型コロナウイルス感染症の影響のため、例年の7月15日から8月31日に報告期限を延期されています。
回答企業の障害者雇用状況について、令和元年6月1日現在と比較すると、特例子会社単体ベースでは、実雇用率(96.44%)が5.33ポイント減少していますが、 企業全体ベースでは、実雇用率や法定雇用率達成企業割合が増加しています。
( )内数値は対前年差・前年比
出典:第 97 回 労働政策審議会障害者雇用分科会資料(厚生労働省)
アンケートの概要
全国障害者雇用事業所協会(全障協)と、障害者雇用企業支援協会(SACEC)の会員企業向けに行ったアンケート結果について、もう少し詳細を見ていきましょう。
全国障害者雇用事業所協会(全障協)の会員企業で回答数は104社、障害者雇用企業支援協会(SACEC)の会員企業で回答数は69社でした。
全国障害者雇用事業所協会(全障協)のアンケート結果
障害者の雇用数(6月頃まで)に関する回答は、「増やした」が22.2%(18社)、「維持した」が77.8%(63社) 、「減らした」が0.0%(0社)となっていました。
また、障害者の雇用数(今後の見通し)に関する回答は、「増やす」が36.0%(31社)、「維持する」が64.0%(55社)、「減らす」が0.0%(0社)となっていました。
出典:第 97 回 労働政策審議会障害者雇用分科会資料(厚生労働省)
障害者雇用企業支援協会(SACEC)
今後の雇用拡大や採用の見通しに関する回答は、「計画通り遂行する」が66.7%(46社)、「計画を縮小し遂行する」が10.1%(7社)、 「計画を再検討する」が17.4%(12社)、「その他」が5.8%(4社)となっていました。
出典:第 97 回 労働政策審議会障害者雇用分科会資料(厚生労働省)
企業からの意見
全国障害者雇用事業所協会(全障協)と、障害者雇用企業支援協会(SACEC)の会員企業からは、次のような回答がありました。
・コロナ禍のなか雇用抑制の話もあるが、当社としては積極的に障害者向けの仕事の開発や、採用を進める。
・来春の法定雇用率2.3%の必達は企業の当然の責務である、という認識のもと、今後も積極的に障がい者の方を採用する所存である。
・雇用率の達成が出来ておらず、法令遵守のためにも計画通り遂行予定です。
・基本的には計画通りに進める予定であるが、社会情勢を見極めながら計画を見直すことも視野に入れている。
・雇用維持と拡大を図る所存であるが、斯様な経済状況の中、雇用率や除外率の変更は、慎重にご判断頂きたい。
・コロナ禍の影響で想定していた通りには受注が進まない現状において、2.3%への引上げに伴う人件費上昇は経営をますます圧迫する。 せめて1年程度延期できないか、見直しをして頂ければ有難い。
・経済状況が悪化している中で、少なくとも現在の障害者雇用を維持することが最重要。今年度に予定されている法定雇用率の改正を実施すると、 経営環境低迷の中、負担増となる企業が増えると思われる。是非、法定雇用率の改定を延期(撤廃)して頂きたい。
現在の障害者法定雇用率
障害者法定雇用率は、障害者が一般労働者と同じように常用労働者となる機会を確保するために、常用労働者の数に対して一定の割合(障害者雇用率)を設定し、事業主に障害者雇用率達成義務等を定めることにより、障害者の雇用を保障するものです。
計算式は、次のようになっています。
出典:第 97 回 労働政策審議会障害者雇用分科会資料(厚生労働省)
現在は、以下の障害者雇用率が平成30年4月1日から定められていますが、令和3年3月31日より前に、さらに0.1%ずつの引上げが予定されています。
特殊法人等 = 2.5%
国、地方公共団体 = 2.5%
都道府県等の教育委員会 = 2.4%
過去の障害者法定雇用率
過去に障害者法定雇用率は、次のように少しずつ引き上げられてきました。
【参考】
・昭和51年10月まで民間企業は努力義務でした。
・国及び地方公共団体の現業的機関とは、郵政省、林野庁、大蔵省造幣局及び印刷局等の身体障害者が比較的従事しにくい作業を内容とする職種が多い機関 (非現業的機関)のことをさしており、それ以外は、現業的機関以外となってきました。
出典:第 97 回 労働政策審議会障害者雇用分科会資料(厚生労働省)
まとめ
新型コロナウイルスの影響が、障害者雇用にどのような影響を与えているのかを見てきました。
今回の7月に開催された第 97 回 労働政策審議会障害者雇用分科会の資料を見ていると、 解雇者数、求人数、新規求職申込件数、就職件数及び就職率のいずれについても、前年同期と比べて悪化している状況は見られます。一方で、一般労働者と比較すると、障害者の就職件数や就職率の減少幅は、小規模に収まっていることがわかりました。
また、全国障害者雇用事業所協会(全障協)と、障害者雇用企業支援協会(SACEC)の会員企業向けに行ったアンケート結果からは、2.3%への引上げを見直してほしいという意見もある一方で、予定通りに引き上げると回答している企業も多くありました。
もともと全国障害者雇用事業所協会(全障協)と、障害者雇用企業支援協会(SACEC)の会員企業は大企業やその特例子会社が多く、これが本当に障害者雇用の実態を反映しているのかというと、かなり疑問もあるのですが、このような調査方法しか手段がなかったものと思われます。
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