適応障害は「個人の問題」? 職場で起きる原因と企業が見直すべき視点

適応障害は「個人の問題」? 職場で起きる原因と企業が見直すべき視点

2025年12月28日 | リスクとトラブル対応

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「急に休職や欠勤が増えた社員がいる」
「これまで真面目に働いていた人が、ある日突然、動けなくなってしまった」
こうした相談が、企業の人事部や管理職から多く寄せられるようになっています。
業務能力が著しく低かったわけでもなく、周囲との関係に大きなトラブルがあったようにも見えない。それにもかかわらず、出社が難しくなり、仕事を続けられなくなる──。
その背景として、近年よく耳にするようになったのが「適応障害」という言葉です。

適応障害は、決して珍しいものではありません。特に、環境の変化が激しく、責任や期待が高まりやすい職場では、誰にでも起こり得る心身の不調として捉える必要があります。
一方で、現場では今なお、
「本人のメンタルが弱かったのではないか」
「気の持ちようの問題ではないか」
といった見方がされてしまうケースも少なくありません。
しかし、実際には、適応障害は個人の資質だけで説明できるものではなく、職場環境や役割との“ズレ”の中で生じることが多いのが実情です。
今回は、働く人がなぜ「適応できなくなる」のか、そして企業や職場がどのような視点を持つことが重要なのかを、整理していきます。

適応障害とは何?主な特徴を解説

適応障害とは、特定のストレス要因に対して、心や行動がうまく適応できなくなった状態を指します。
ここで重要なのは、「気分が落ち込む病気」というよりも、環境から受ける負荷と、個人の心身の反応とのバランスが崩れた結果として生じる状態として捉えることです。
適応障害の大きな特徴は、原因となるストレスが比較的はっきりしている点にあります。
多くの場合、
・職場の人間関係
・業務量や責任の増加
・異動や配置換えなどの環境変化
といった出来事がきっかけとなり、そのストレスが生じてから数か月以内に、心身の不調が現れます。
逆に言えば、ストレス要因から距離を置いたり、環境が調整されたりすると、症状が軽くなるケースが多いことも、適応障害の特徴です。

よく見られる症状

適応障害の症状は、人によって現れ方が異なりますが、大きく分けると、心理面・行動面・身体面の変化として表れます。

【心理面の変化】

・気分の落ち込み
・強い不安や緊張感
・焦りやイライラ感
・自分を責める思考が強くなる

【行動面の変化】

・集中力や判断力の低下
・仕事の能率が落ちる、ミスが増える
・遅刻・欠勤・早退が増える
・これまで普通にできていた業務を避けるようになる

身体面の変化

・不眠、寝つきの悪さ
・食欲不振や胃腸の不調
・頭痛、動悸、疲労感
・朝になると体が重く動けなくなる

これらの症状は、本人の意思や努力だけでコントロールすることが難しいという点が重要です。

「診断名」よりも大切な視点

企業の現場では、「適応障害という診断がついたかどうか」が注目されがちですが、本来重要なのは、診断名そのものではありません。
・なぜ、その人がその環境で苦しくなったのか
・どのような負荷や期待が重なっていたのか
・周囲に相談しやすい状況だったのか
といった、状態や背景を理解する視点が欠かせません。
適応障害は、「心が弱くなったサイン」ではなく、環境とのズレが限界に達したことを知らせるサインとして捉えることが、企業対応の出発点になります。

働く人が適応障害になりやすい主な原因

適応障害は、1つの出来事ではなく、複数の負荷が重なった結果として起こることがほとんどです。

適応障害は、特定のストレス要因に対して心身が反応した結果として起こる状態です。そのため、原因は比較的はっきりしていることが多い一方で、1つの要因だけで発症するケースは多くありません。
職場で見られる適応障害の背景には、いくつもの負荷が重なり合い、気づかないうちに限界を超えてしまう構造があります。
ここでは、働く人が適応障害につながりやすい主な要因を整理します。

1.人間関係によるストレス

最も多く見られる要因が、職場の人間関係です。
・上司との関係がうまくいかない
・同僚との意思疎通が難しい
・チーム内で孤立している感覚がある

また、
・強い叱責や否定的な言動
・ハラスメントに該当する行為
が継続する場合、心身への影響は大きくなります。
人間関係のストレスは、「毎日続く」「避けにくい」という特徴があり、知らず知らずのうちに消耗を招きやすい要因です。

2.業務量・責任の増加

次に多いのが、業務量や責任の変化です。
・慢性的な長時間労働
・休みが取りづらい状況
・業務が一部の人に集中している

加えて、
・経験やスキルに見合わない高い期待
・新しい役割を突然任される
といった「期待と能力のミスマッチ」が起こると、「応えなければならない」というプレッシャーが強まり、自分を追い込んでしまうことがあります。

3.職場環境・役割の変化

職場の変化も、適応障害のきっかけになりやすい要因です。
・異動や配置換え
・組織再編やチーム変更
・評価制度の見直し

また、
・テレワークの導入
・働き方やコミュニケーション方法の変化
など、一見前向きな変化であっても、本人にとっては「これまでのやり方が通用しなくなる体験」になることがあります。

4.キャリア・将来への不安

仕事を続ける中で生じる、将来への不安も無視できません。
・評価が下がった
・昇進や昇格が思うように進まない
・成果を出し続けなければならないという重圧

特に、責任感が強く、仕事に真剣に向き合っている人ほど、「このままでいいのか」「期待に応えられているのか」と自分を問い続けてしまう傾向があります。

5.仕事と私生活の負荷の重なり

職場のストレスだけでなく、私生活での負荷が重なることで、適応が難しくなることもあります。
・育児や介護との両立
・家庭内の問題
・経済的な不安や生活の変化
仕事そのものに大きな問題がなくても、複数の負荷が同時にかかることで、心身の余力が急激に低下するケースは少なくありません。

原因は「重なって」起こる

適応障害を理解する上で重要なのは、原因が1つではなく、複数の要因が重なって起こるという点です。
・人間関係のストレスに、業務量の増加が重なる
・環境変化に、将来不安や私生活の負荷が加わる
こうした状態が続くと、ある時点で、心身が「これ以上は適応できない」とサインを出すことになります。適応障害は、そのサインが表に現れた状態だと捉えることができます。

適応障害は「個人の弱さ」ではない

適応障害について語るとき、職場ではしばしば次のような言葉が聞かれます。
「本人のメンタルが弱かったのではないか」
「もう少し気持ちを切り替えられなかったのか」
しかし、実際の相談現場で多く見られるのは、真面目で、責任感が強く、周囲の期待に応えようとしてきた人が、ある時点で動けなくなってしまうケースです。
決して、最初から意欲が低かったわけでも、努力を怠っていたわけでもありません。

真面目な人ほど、抱え込みやすい

適応障害に至る人の多くは、
・与えられた役割をきちんと果たそうとする
・周囲に迷惑をかけたくないと考える
・弱音を吐くことにためらいがある
といった特徴を持っています。
そのため、環境に違和感を覚えても、
「自分が頑張れば何とかなる」
「もう少し耐えれば乗り越えられる」
と、無理を重ねてしまいがちです。

心身が「ブレーキ」をかけるということ

限界まで耐え続けた結果、ある日、心や体が動かなくなる。これは、本人の意思が弱くなったからではありません。心身が、これ以上の負荷に耐えられないと判断し、ブレーキをかけた状態だと考えることができます。
適応障害は、
「頑張れなくなった状態」ではなく、
「頑張り続けた結果、適応が続けられなくなった状態」
として理解する必要があります。

「できなくなった」のではない

企業側が注意すべきなのは、「以前はできていたのに、今はできない」という見方です。適応障害の状態にある人は、能力そのものを失ったわけではありません。
置かれている環境や役割、期待の中で、そのまま適応し続けることが難しくなっているという状態にあります。
この違いを見誤ると、
・本人を責めてしまう
・対応が遅れる
・不調が長期化する
といった結果につながりかねません。

「本人の問題」にしない視点を持つ

適応障害を「本人の問題」「メンタルの弱さ」として捉えてしまうと、企業側は対応の選択肢を狭めてしまいます。
一方で、
・どのような負荷が重なっていたのか
・環境や役割の設計に無理はなかったか
・相談しやすい関係性や仕組みはあったか
といった視点を持つことで、職場として取れる対応は大きく広がります。
適応障害は、個人を評価するための材料ではなく、環境や関わり方を見直すためのサインです。この認識の転換こそが、企業にとっても、働く人にとっても、回復と再適応への第一歩になります。

企業・管理職が見落としやすいサイン

適応障害は、ある日突然、何の前触れもなく起こるように見えることがあります。しかし実際には、その前に小さなサインが現れていることがほとんどです。
問題は、それらのサインが「よくあること」「一時的な不調」として見過ごされやすい点にあります。ここでは、企業や管理職が特に見落としやすい変化を整理します。

遅刻・欠勤・早退の増加

・朝になると体が動かない
・出社直前で体調不良を訴える
・休みがちになる、早退が増える
こうした行動は、単なる生活リズムの乱れではなく、職場に向かうこと自体が大きな負荷になっているサインである場合があります。
特に、これまで勤怠が安定していた人に変化が見られた場合は、注意が必要です。

集中力や判断力の低下

・ミスが増える
・作業スピードが落ちる
・判断に時間がかかる
こうした変化は、「気が緩んでいる」「やる気がない」と誤解されがちですが、心身の余力が低下している状態で起こることが少なくありません。
本人が一番その変化に戸惑い、自信を失っているケースも多く見られます。

表情やコミュニケーションの変化

・表情が乏しくなる
・受け答えが短くなる
・雑談や相談を避けるようになる
これらは、周囲との関わり自体が負担になり始めているサインです。
「静かになった」「大人しくなった」とポジティブに受け取られてしまうこともありますが、内面では強い緊張や不安を抱えている場合があります。

これまで普通にできていた業務を避け始める

・会議への参加を嫌がる
・特定の業務を避ける
・人前で話す役割を断る
こうした行動は、「甘え」や「わがまま」ではなく、心身が強い負荷を感じている業務から距離を取ろうとする反応であることが少なくありません。

早期に気づけるかどうかが、分かれ目になる

これらのサインに共通するのは、一つひとつは些細に見えるという点です。だからこそ、「様子を見よう」「忙しい時期だから仕方ない」と先送りにされやすくなります。
しかし、この段階で気づき、声をかけ、環境を調整できるかどうかが、不調が一時的なものにとどまるか、長期化するかの大きな分かれ目になります。適応障害への対応は、「問題が大きくなってから動く」ものではなく、小さな変化に気づけるかどうかから始まります。

適応障害を防ぐために、企業が持つべき視点

適応障害への対応というと、「不調が出た人をどう支えるか」に目が向きがちです。もちろん個別の配慮は重要ですが、それだけでは、同じことが繰り返されてしまいます。
企業に求められるのは、個人への対応と同時に、環境や構造を見直す視点です。

相談しやすい空気があるか

制度として相談窓口が設けられていても、「実際に相談できるかどうか」は別の問題です。
・困りごとを話しても大丈夫だと思えるか
・弱音を吐くと評価が下がると感じていないか
・上司や周囲が、日常的に話を聞く姿勢を持っているか
こうした空気や関係性が整っていなければ、不調のサインは表に出にくくなります。

業務や期待の設計は適切か

適応障害は、業務そのものよりも、業務の設計や期待のかけ方によって生じることが少なくありません。
・業務量や期限は現実的か
・役割や責任があいまいになっていないか
・成果だけが強調され、プロセスが見えなくなっていないか
「頑張れば何とかなる」前提の設計は、気づかないうちに無理を常態化させてしまいます。

一人に判断や負荷を集中させていないか

・判断を一人で背負わせていないか
・トラブル対応が特定の人に偏っていないか
・相談や確認がしにくい体制になっていないか
責任感が強い人ほど、こうした状況で「自分が何とかしなければ」と抱え込みやすくなります。
負荷を分散できる仕組みがあるかどうかは、適応障害を防ぐ上で重要なポイントです。

「支援=優しさ」ではない

適応障害への対応は、単なる「気遣い」や「優しさ」だけで成り立つものではありません。必要なのは、人が無理なく働き続けられる前提を、構造として整えることです。
・相談しやすい関係性
・無理のない業務設計
・判断や責任を分け合える体制
こうした土台があってこそ、個別の支援も機能します。

適応障害は「環境を見直すサイン」

適応障害は、特別な人だけに起こるものではありません。環境や役割、期待のかかり方次第で、誰にでも起こり得る心身の反応です。
だからこそ、「なぜこの人がこうなったのか」と個人を責めるのではなく、どのような環境との関係の中で起きたのか を見直すことが重要になります。
企業が視点を変え、環境を整えることで、防げるケース、早く回復できるケースは決して少なくありません。
適応障害は、問題の終着点ではなく、職場のあり方を見直すためのサインだと捉えることが、これからの組織づくりにつながっていきます。適応障害への向き合い方は、その企業が「人をどう捉えているか」を映し出します。

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