近年、働く障害者のなかで精神障害者の比率が増えています。精神障害者の雇用が進展しており、これからも精神障害者の雇用拡大や雇用継続はますます進むものと考えられます。
しかし、精神障害者の人のことをあまり知らない、どのように接したらよいのか戸惑っているという声を受け入れ先の職場や部署から聞くことはよくあることです。知らないがゆえに心配になっているのであれば、正しい知識や情報を知ることが大切になります。
ここでは、精神障害のある人と職場で一緒に働くときにどのように接したらよいのか、そのポイントについてQ&A形式で、見ていきたいと思います。
精神障害のある人の就業時間や業務量はどうしたらよいか
新たに精神障害のある人を採用する予定です。就業時間や業務量はどうしたらいいでしょう?会社の人事担当は、精神障害のある方の雇用が初めてのため、就業時間や業務はどうしたらいいのか悩んでいるようです。
様子をみながら少しずつ業務量を調整していく
仕事については、無理をすることがないように、少しずつ勤務時間を延ばしたり、業務量を増やすなど調整できるようにしておくとよいでしょう。また、はじめできているからといって、そのペースがずーっと同じように続けられるかというと、それが難しいケースも少なくありません。
精神障害のある方の中には、「緊張しやすい」「何事にも手を抜けず頑張りすぎてしまう」という特性のある方が多いので、知らず知らずのうちに疲労がたまっていくこともあるからです。職場定着のためには、本人に合った勤務時間と業務量から始めること、そして定期的にそれが無理のないペースで行っているのかの確認が重要です。
精神障害者の就業時間や業務に関する配慮例
【勤務時間の配慮について】
・短時間勤務を認め、少しずつ務時間を延ばしていくようにする。
・残業や夜間業務は控えてもらっている。
・勤務時間延長について、本人の体調などを最優先に、本人、担当者、主治医の意見を取り入れ話し合いを重ねる。
【業務量の配慮について】
・本人の状況や業務の習熟度に合わせて業務量を増やしていく。
・過集中の傾向があるため、業務内容を段階的に増やしていく。
・業務内容・量の変更をせずにパターン化して、本人が混乱しないようにする。
・本人の苦手なことに配慮した上で、業務を担当してもらう。
例)人との接触の少ない業務を担当してもらう、電話応対を免除する、単純な作業(社員の補助業務や反復作業など)から開始して徐々に複雑な作業に移行
・チームを組んで急な休みが発生しても業務をフォローできる体制を取っておく。
・本人が困ったり迷ったりしていないか、定期的な声かけや日誌により確認し、業務量を調整する。
・業務量を増やすときや新しい業務に携わる時は、ジョブコーチなどの専門支援機関の助言を聞くようにする。
常に緊張感を持って仕事をしている様子で疲れていないか心配
職場に慣れてきて順調そうに働いている精神障害者がいます。一生懸命仕事をして」くれていますが、いつも緊張しているようで、疲れ気味ではないか心配です。職場として、どのように配慮すればよいでしょうか。
休憩時間や場所を本人と相談する
できるだけ静かな場所で休憩できるようにするなど、個人の意見、環境が許す範囲で、リラックスできる環境を提供するとよいでしょう。精神障害のある方の中には、新しい環境に対して不安を感じやすかったり、きまじめで手を抜けず、常に緊張感を持ち続けて頑張りすぎたりしてしまう方もいます。
本人の希望も聞いた上で、できるだけ静かな場所で気持ちを落ち着かせる場所での休憩を取れるように配慮を行っている事例があります。
精神障害者が気持ちを落ち着けて休憩できるための配慮の例
・休憩時間を一人で過ごしたいという本人の意向により、静かに休憩ができるようにしている。
・一人で休憩できるよう、本人の希望に応じて、従来の休憩場所以外の休憩場所を確保(会議室の解放など)したり、休憩時間をずらしたりしている。
・本人がリラックスできる自由な場所(車の中、外出など)での休憩を認めている。
・休憩室に簡易ベッドを置くなど、横になって休めるようにしている。
・スペースが狭かった従来の休憩室を改装し、男女別の休憩室及び談話室を設けている。
※発達障害のある方にも同様の配慮をしている事例があります。
仕事は落ち着いてきたようだが、継続的に働くためにできることは何か
精神障害の人は、他の障害種別と比べると安定して働くことが難しいと言われています。そのために仕事が安定しているように見えたとしても、事前に継続的に働き続けられるように配慮しておくことも大切です。では、どのようなことができるのでしょうか。
一人ひとりのニーズを理解し、それに応じた配慮を示す
精神障害といっても、一人ひとりのニーズや求めることはさまざまです。また、考えていることももちろん一人ひとり違いますので、それに合わせたサポートや配慮を示していくことが大切です。
一人ひとりのニーズを理解し、それに応じた配慮を示す例
・専門職(ジョブコーチ、障害者就業・生活支援センター、障害者職業センター)の支援を活用する。(人によっては活用したくないというケースもあります。企業が外部の支援機関からのサポートを受けたいと思うときには、事前に本人の了承を取ることが必要です。)
・面談や家族と連絡をとること、日誌の確認などにより、体調を把握している。
・本人と相談した上で、本人にてんかんの発作が起きたときの対処法をあらかじめ従業員間で共有し、対応できるようにする。
・急な事態が発生した時に対応できるよう、社内用PHSを持たせる。
・てんかんの方の発作を予防するため、夏期には水分補給のためのウォーターサーバーを設置している。
・事務作業に専念できるよう、人の出入りする窓口から離れた座席に配置している。
・手待ち時間が出来た際にできる簡単な仕事を常に用意しておき、仕事が途切れることによるストレスを少なくなるようにしている。
・定期的に、臨床心理士による個別相談を実施している。
・就労支援機関や医療機関との連携を密にして、相談や体調が悪化したときの適切な支援につなげられるように、会社外のサポート体制を構築している。
・仕事以外でチャレンジや活躍できる場(アビリンピック、障害者ワークフェアへの出店、スポーツ大会など)の参加支援を行っている。
精神障害者への接し方で大事なポイントとは何か
精神障害者と一緒に働くというと、何かと身構えてしまいがちですが、基本的に精神障害者手帳を持っていても働くことができると判断されている人が就職活動を行っています。
精神障害のある人は、就労を考えるときに、症状が安定していて、働くことが可能な状況にあることの証明として「主治医の意見書」というものを持つことが必要になります。この「主治医の意見書」は、ハローワークで求職者登録をするときに提出が求められますし、企業で実際に採用する場合にも確認のために提示してもらうことができます。
ですから、障害特性に配慮することはある程度必要になりますが、逆に障害に配慮しなければ・・・と、こちらが身構えることを負担に感じることも少なくありません。社会人の一員として会社で受け入れていくことを望む精神障害者の人は多くいます。
精神障害者への接し方や考え方で大切なこと
・偏見を持たない。
・障害に対する正しい知識を持つ。
・意味を何通りにも取れるような表現はしない。(誰が聞いてもわかるような、端的な表現をする。)
・相手に対して恐れの感情をもたない。(何らかの恐れの気持ちを持って接していると、逆に相手の方が、あなたに恐怖を感じてしまいます。)
・人として尊重する。
・その人の「良い」ところを探す。
・子供扱いをせずに、尊重する。
・何でも手や口を出したりしない。(見守ることも大切なサポートの1つです。)
・通院状況や薬物療法、副作用について把握する。
・服薬などが、適切に続けられているかを見守る。
動画の解説はこちらから
まとめ
精神障害のある人と職場で一緒に働くときにどのように接したらよいのか、そのポイントについてQ&A形式で見てきました。
精神障害者の人のことをあまり知らない、どのように接したらよいのか戸惑っている職場や部署でも、精神障害についての正しい知識や情報を得たり、実際に実習などで一緒に働く機会があると、その不安や心配は軽減されるようです。まずは、一緒に働く人たちが理解をすることがとても大切になってきます。
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