障害者雇用を促進するための1つの方法として、特例子会社を設立する企業が増えています。
「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」によると、令和3年6月1日現在で特例子会社の認定を受けている企業は562社(前年より20社増)で、雇用されている障害者の数は、41,718.5人でした。
特例子会社を設立する際の行政手続などは、一般企業の設立とそれほど変わりません。ここでは、会社設立の手順を確認していきます。
特例子会社の設立を検討
多くの企業が、特例子会社設立を検討する大きな理由に、法定雇用率が未達成であることがあげられます。法定雇用率達成のための 1つの手段として、また業務の効率化促進の手段として、全国に特例子会社が増加していることからしても、特例子会社を検討する価値はあるでしょう。
特例子会社設立を検討する段階では、ハローワークや高齢・障害者・求職者支援機構、障害者職業センターなどの支援機関から、特例子会社に関する情報を収集して、すでにつくられた特例子会社を見学するなど、自社において特例子会社設立・ 運営が可能なのかを考えることができます。また、業務内容、業務量、障害者を設立時に何人雇用するのかなどを検討します。
特例子会社設立計画の作成
社内にプロジェクトチームを設け、特例子会社設立計画を作成します。この計画書に盛り込む内容としては、以下のものを入れます。この計画書は、会社として特例子会社を設立することを役員に承認してもらうためのものになりますから、できるだけイメージしやすい事業計画書を作成するとよいでしょう。
特例子会社設立計画の内容
設立の理念
具体的な企業内容
・会社名
・所在地
・資本金
・損益計算書(収支計画や資金計画、助成金などを盛り込む)
・事業内容
・従業員数(障害者数)
・採用計画
・運営計画
・労働条件
・設備 など
障害のある人への支援体制
・支援者
・設備
・関係機関との連携 など
役員会への提案準備・役員会の承認
作成した設立プランを役員会に提出し、役員会の承認を得ます。
設立準備室の設置
役員会の承認を得たのち、実際に特例子会社立ち上げの準備をします。まず、社印、代表社印、銀行印、その他にも必要な印鑑・ゴム印など、必要な法人印をつくります。同時に定款の認証などの場面で必要となる取締役または発起人全員の印鑑証明も入手しておきます。
定款の作成
定款を作成します。定款には以下の内容を記載する必要があります。
定款の内容
必ず記載すべき事項
・目的(事業内容)
・商号(会社名)
・本店所在地
・資本金
・役員の氏名・住所
相対的記載事項
・設立時の取締役・監査役の氏名
・監査役の設置
・代表取締役の選任方法
・株主総会の決議方法
任意的記載事項
・取締役・監査役の数や資格
・株主総会の開催時期
・会社の営業年度
定款などの書類の作成は、行政書士、司法書士、弁護士など専門家に依頼することができます。また、親会社の法務部門とも連携を取りましょう。
公証人役場で定款認証
定款は公証人役場で認証を受けます。以下のものを用意して、発起人全員(代理人でも可)で公証人役場へ行きます。
・定款(最低3通)
・発起人全員の印鑑証明
・収入印紙
・公証人の手数料(定款認証手数料5万円+謄本交付手数料等を現金で用意する)
・発起人の実印
認証を受けたのち、遅滞なく発起人名義の口座に資本金を振り込みます。発起人の代理として、行政書士、司法書士、弁護士などの専門家に、公証人役場で認証の手続きを依頼することができます。依頼する場合には、発起人の委任状が必要になります。
会社設立登記申請
出資金払込から2週間以内に設立登記を行います。登記所に必要書類を提出し、審査を受けます。審査結果には、数日かかります。また、今後の手続きのために「法人登記簿謄本」を5部ほど入手しておきます。
就業規則等作成
就業規則は、特例子会社独自のものを作成することができます。親会社の就業規則を参考にしながら、特例子会社の雇用する障害者の実態に合わせるとよいでしょう。て工夫しましょう。就業規則に は以下のようなことを決めておきましょう。
・正社員やパート社員の賃金
・労働時間や休日
・契約期間
官庁への諸手続き
会社設立後には、会社運営に関係の深い官庁への届出が必要となります。提出期限に注意して、もれなく提出するようにしましょう。
税務署
・法人設立届出書・・・法人設立概況書と一緒に設立から2か月以内に提出
・給与支払事務所等の開設届書・・・設立から1か月以内に提出
・青色申告の承認申請書・・・設立から3か月以内、もしくは事業年度末のいずれか早い日の前日までに提出
都道府県税務事務所
・法人設立届出書・・・自治体によって異なるが、多くのところで事業開始2週間~1ヶ月以内に提出
市町村役場
・法人設立届出書・・・自治体によって異なるが、多くのところで事業開始2週間~1ヶ月以内に提出
日本年金機構 (旧・社会保険事務所)
・健康保険・厚生年金保険新規適用届書・・・適用事業者となったら速やかに提出
・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届書・・・適用事業者となったら速やかに提出
労働基準監督署
・労働保険の保険関係成立届・・・従業員を雇用してから速やかに提出
・適用事業報告書・・・従業員を雇用してから速やかに提出
・時間外労働時間に関する協定書・・・従業員を雇用してから速やかに提出
ハローワーク
・雇用保険適用事業所設置届・・・雇入れ日の翌日か10日以内に提出
・雇用保険被保険者資格取得届・・・採用した日の属する月の翌月10日までに提出
障害者募集準備
ここまでの手続が終了した時点で、障害のある人の募集準備を行います。
採用活動では、最寄りのハローワークに協力してもらい、就職面接会等に参加したり、会社のホームページに 求人広告を出すなどの方法で募集します。また、合わせて特別支援学校や就労移行支援事業所等向けに会社説明会を開き、特例子会社設立を周知したり、採用についての情報を提供します。
このような関係機関との連携やネットワークをつくることで、採用までをスムーズに進めることができると共に、今後の採用や就労定着に関して、関係機関との連携ネットワー クを構築できるといったメリットがあります。
採用人数が多い場合、ハローワークでは個別に選考会を実施することもできますので、積極的に相談してください。採用を決める際には、本人と就労支援機関、特別支援学校などの支援機関(場合によっては、家族)と面接します。
※助成金を利用する場合は、原則としてハローワークからの紹介を受ける必要があるなど一定の条件があります。募集開始前 に必ずハローワークに相談しましょう。
面接・内定・実習
募集準備ができたら、実際に面接や実習を行ないます。最寄りのハローワークにいる障害者雇用担当者と情報交換やアドバイスを受けるとスムーズに行うことができます。
また、就労移行支援事業所では、就職したい障害者が訓練をおこなっていますので、近隣の就労移行支援事業所や特別支援学校等へも声をかけ、マッチングする人材がいれば紹介を依頼します。
入社・特例子会社認定申請
障害者を5人以上採用した時点で、特例子会社認定を申請します。申請は親会社の所在地を管轄するハローワークで行います。申請には、下記の申請書類が必要となります。
・子会社特例認定申請書・・・公共職業安定所長に提出する書類
・親事業主及び子会社の概要・・・親会社と特例子会社の概要等を記載、親会社の直近の有価証券報告書 (写)または附属明細書(写) 親会社が子会社の意思決定機関を支配してい ることを示す書類
・子会社の株主名簿または出資口 数名簿 同上(株主名、額面株主数、その他) 親会社の「障害者雇用状況報告 書」 直近の6月1日現在のもの
・申請日現在における親会社(当 該子会社を含む)の「障害者雇用状況報告書」
・定款
・法人登記簿謄本
・親会社から派遣されている子会 社の役員名簿 氏名、年齢、所属、役職、入社年月日(親会 社からの主な略歴)
・子会社の社員名簿 氏名、年齢、所属、役職、入社年月日
・子会社の障害者雇入れ通知書 (写) 個人ごとに雇い入れ条件のわかるもの
・子会社の就業規則・給与規程等
・障害者の職業生活に関する指導員の配置状況
・障害者職業生活相談員の選任届等
・子会社の図面、案内図
・子会社の勤務中(または実習中)の写真 職場の仕事内容が確認できるもの
その他
・子会社が行う事業において障害者雇用促進及び安定に関する資料
特例子会社の認定を受けるには、新規に障害者を雇用することが求められているわけではありません。特例子会社として認定されるためには、子会社は以下の要件を満たしていることが必要となります。認定申請時点で下記の要件を満たしていれば、新たに障害者を雇用する必要はありません。(親会社からの移籍などの場合は、助成金は対象外になります。)
・障害者の雇用数が5人以上
・当該子会社の全従業員数の20%以上
・雇用される障害者に占める重度身体障害者、知的障害者及び精神障害者の割合が30%以上
特例子会社設立に関する知っておきたいポイント
障害者雇用納付金や調整金、報奨金の計算について
特例子会社制度では、親会社と特例子会社の労働者を合算して雇用率制度を適用し、納付金や調整金、報奨金の額を計算することになります。グループ適用の対象となった場合も、 対象となった企業グループ全体を合算して雇用率制度を適用し、納付金や調整金、報奨金の額を計算することになります。
グループ適用になった場合、特例子会社制度と同じように企業グループの労働者は、親会社が雇用する労働者とみなすので、納付金の支払及び調整金、または報奨金の受取は親会社が担うことになります。
障害者雇用納付金制度の適用時期
特例子会社の認定がなされた場合、障害者雇用納付金制度の適用については、認定の申請が行われた日の属する年度の初めから適用されます。ただし、当該認定の申請が、障害者雇用納付金等の申請期限内(4月1日から5月15日)に行われた場合には、前年度の初めから適用されます。
そのため特例認定の申請を行い、特例が認められた年度から、納付金・調整金・報奨金・在宅 就業障害者特例調整金の額については、親会社・特例子会社・関係会社の労働者数を合算して計 算することとなります。また、申告・申請手続等は親会社が行うこととなります。
障害者雇用状況報告
以下の2種類の報告書を親会社がまとめて提出します。
・グループ内の各企業の報告書
・上記を合算したグループ全体の報告書
企業全体の常用労働者(除外率により除外すべき労働者を控除した数)が50人以上の事業主は、 毎年6月1日現在における身体障害者、知的障害者、精神障害者の雇用に関する「障害者雇用状況報告書」を、7月15日までに本社の所在地を管轄するハローワークに提出しなければなりません。「障害者雇用状況報告書」には、記載欄に応じた障害者数を記載します。
障害者雇用を行なう事業所の税制上の優遇措置
障害者を雇用する事業所では税制上の優遇制度があり、障害者を多数雇用したり、障害者施設に業務を発注するなど、障害者雇用や障害者の働く場への支援に積極的な企業は、以下のような税制上の優遇制度を受けることができます。
機械等の割増償却措置 (法人税・所得税)
障害者を多数雇用する事業所が減価償却を行う際、その事業年度、またはその前5 年以内に開始した各事業年度に取得・製作、建設した機械や設備などについて、普 通償却限度額に加えて、機械は24%、工場用建物は32%の割増償却ができる。
「障害者の働く場」に対する 発注促進税制 (法人税・所得税)
就労移行支援事業所や特例子会社などへの業務を前年度より増加させた場合、過去 3年間に取得、製作、建設した減価償却資産について、発注額の増加額分の割増償却ができる。
助成金の非課税措置 (法人税・所得税)
国や地方公共団体の補助金、給付金などの支給を受け、それを固定資産の取得や改 良に使った場合、その助成金分について損金算入(法人税)、総収入金額に不算入(所得税)できる。
事業所税の軽減措置
障害者を多数雇用する事業所が助成金の支給を受けて施設の設置を行った場合、その施設で行う事業にかかる事業所税について、床面積の2分の1が控除できる。また、従業員給与総額の算定について、障害者に支払う給与総額を控除できる。
不動産取得税の軽減措置
障害者を多数雇用する事業所が助成金の支給を受けて事業用施設を取得し、引き続き3年以上、事業用に使用した場合には、不動産取得税について減額の措置がある。
固定資産税の軽減措置
障害者を多数雇用する事業所が助成金の支給を受けて事業用施設を取得した場合、当初5年間に限り、固定資産税ついて減額の措置がある。
動画の解説はこちらから
まとめ
特例子会社を設立する手順を説明してきました。実際に会社設立に関する行政手続などは、一般企業の設立とそれほど変わりません。特例子会社設立の流れや申請時に必要な手続きや書類などを記載していますので、参考にしてください。
特例子会社をつくることは、会社設立と同じように、必要な書類を提出することによってできますので、設立すること自体はそれほど難しいことではありません。しかし、大切なのは、特例子会社を設立した後、継続的に運営し、安定的に収益をあげていくことです。そのためには事業計画の作成や親会社の理解が不可欠になります。
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