D&Iが失敗する企業の問題は、理念でも、現場の意識でもありません。問題は 「何を基準に決めるのか」が設計されていないことです。
多様性が機能しないのではありません。機能させるための意思決定の構造が、整備されていないだけです。
・理念はある。
・スローガンもある。
・研修も実施している。
・制度も整えている。
それでも現場が混乱するのは、価値観が増えたからではありません。判断の軸が共有されていないからです。
成果と配慮が衝突したとき、スピードと合意がぶつかったとき、公平と柔軟性が対立したとき――「何を優先するのか」が決まっていない組織では、どれだけ対話を重ねても、結論は安定しません。
D&Iの成否を分けるのは、理解の深さではなく、決め方の設計です。多様性とは、人の違いの問題ではありません。増えた選択肢をどう扱うかという、意思決定の問題です。
ここを設計しないままD&Iを進めれば、理念は掲げられ、会議は増え、現場は疲弊します。逆に言えば、判断基準を言語化し、役割と責任を明確にし、「決める構造」を整えたとき、 多様性は初めて、組織の力になります。
D&Iが理念止まりになる企業の共通点|現場が疲弊する理由
D&Iを掲げていない企業は、今ではほとんどありません。
・D&I宣言は出している
・経営メッセージも発信している
・研修も実施している
・合理的配慮のルールも整備している
・人的資本開示も進めている
形式的には、やるべきことは進んでいる。外から見れば、「先進的な企業」に見えるかもしれません。
しかし、現場では別の空気が流れています。
・「また新しい方針が増えた」という戸惑い
・配慮を巡る不満や小さな反発
・管理職の疲労感の蓄積
・“公平性”を巡る議論が毎回振り出しに戻る
・そして何より、「結局どうするのか」が決まらない
会議は増えている。対話の場もある。理念には誰も反対していない。それでも、どこかが噛み合わない。
管理職は板挟みになります。「配慮も必要だ」と言われる。「成果も落とすな」と言われる。「チームの納得も大事だ」と言われる。
すべて正しい。だからこそ、迷いが増えていく。現場からはこんな声が出始めます。
「理想は分かるけど、現実は回らない」
「結局、誰がどこまで責任を持つのか曖昧」
「何が“正解”なのか分からない」
ここで明確にしておきたいのは、問題は“理解不足”ではないということです。D&Iの意義を知らないわけではない。多様性の重要性を否定しているわけでもない。むしろ、多くの企業は十分に学び、努力しています。
それでも機能しないのは、「どう考えるべきか」は共有されていても、「どう決めるのか」が設計されていないからです。この状態では、D&Iは“正しいこと”として語られ続けますが、 組織を前に進める力にはなりません。
理念止まりになる企業に共通しているのは、思想の不足ではなく、意思決定構造の未整備なのです。
なぜD&Iは失敗するのか|対話不足ではなく判断基準の未整理
D&Iがうまくいかないとき、多くの企業はこう考えます。
「理解が足りないのではないか」
「対話が足りないのではないか」
「現場の意識が追いついていないのではないか」
しかし、実際に起きているのは、別の問題です。
例えば、
「成果と配慮が衝突したとき、どちらを優先するのか」
「公平とは“同じ扱い”なのか、“機会の調整”なのか」
「例外対応は誰の判断で、どこまで許容するのか」
これが言語化されていないまま、D&I施策だけが進みます。
その結果、会議では多様性の重要性が共有される。現場でも配慮の必要性は理解されている。それでも、最終的な結論は毎回揺れる。ケースごとに判断が変わる。前例が積み上がり、次の判断がさらに難しくなる。という悪循環が出来上がります。
これは、スキルの問題ではありません。意識の問題でもありません。構造の問題です。つまり、判断不足の状態に陥っているのです。
D&Iが失敗するのは、多様性が悪いからではありません。「決める構造」が整っていないまま、多様性だけを拡張していることが原因です。
D&Iが摩擦に変わる瞬間|配慮と公平が衝突すると組織は止まる
D&Iが進むと、組織には必ず“分岐点”が増えます。
例えば――
・障害のある社員への配慮を優先するのか
・チーム全体の業務負荷の公平性を優先するのか
・育児時短を守るのか
・納期達成を優先するのか
・成長機会を与えるのか
・短期的な生産性を守るのか
どれも間違っていません。だからこそ難しい。しかし、ここに組織としての判断軸がないと、判断は現場任せになる、管理職が毎回悩む、前例が増えて統制が崩れるという状況が生まれます。
そして次第にこう言われ始めます。「D&Iって、現場を混乱させていない?」
しかし本質は違います。D&Iが問題なのではありません。経営が“決める軸”を提示していないことが、現場の迷いを増幅させているのです。
D&Iは人事課題ではない|経営が決めるべき4つの判断軸
D&Iがうまくいかない企業の多くは、D&Iを「人事の取り組み」として扱っています。しかし、実際に現場で起きている摩擦の正体は、制度運用の問題ではありません。“何を優先するのか”が決まっていないことです。
D&Iが失敗する企業は、共通して次の状態にあります。
・判断基準を現場任せにしている
・優先順位を曖昧にしている
・例外許容ラインを決めていない
その結果、現場では毎回こうなります。
「今回は特例でいいのか?」
「どこまでが配慮で、どこからが特別扱いか?」
「成果が下がっても守るべきか?」
そして最終的に、判断は“その場の空気”で決まり、組織としての一貫性は静かに崩れていきます。これでは、組織としての一貫性は生まれません。本来、経営が決めるべきことなのです。
D&Iとは、「違いを受け入れること」だけではありません。違いが存在する前提で、どう決めるかを設計することです。この“決め方”が経営レベルで言語化されていなければ、D&Iは理念で止まります。
スローガンはある。行動指針もある。しかし、衝突が起きた瞬間に迷う。それは、現場が未熟なのではなく、経営が判断の軸を示していないからです。
D&I疲れが出ている企業の兆候|判断設計を見直すべきサイン
次のいずれかに当てはまる場合、D&I疲れが社内にあるかもしれません。
・会議が増えたのに、何も決まらない
・「配慮しすぎでは?」という声が出始める
・管理職が“板挟み”状態「もうこれ以上増やさないでほしい」「正直、現場が回らない」という声があがる。
・人事が“調整屋”になっている
・「D&Iって本当に必要?」という声が出る
・優秀な管理職が静かに離脱する
D&I疲れの正体は、多様性の副作用ではありません。“決め方”が曖昧なまま負荷だけが増えている状態なのです。
まとめ|D&Iの成否を分けるのは“意思決定設計”である
D&Iがうまくいかない理由は、人の意識が低いからでも、現場の理解が足りないからでもありません。
問題は、構造です。多様性が増えるということは、価値観が増え、正解が複数になり、判断の分岐点が増えるということです。そのとき必要なのは、「どう決めるか」の設計です。
多様性を活かせている企業には、共通点があります。
・優先順位が明確である
・例外許容ラインが定義されている
・最終決定権が明確である
・公平の定義が言語化されている
つまり、決める構造を持っているのです。D&Iの成否は、施策の量や理念の美しさでも決まるわけではありません。決まるのは、組織がどれだけ「決め方」を設計しているかです。
多様性が求められる組織の方向けに、D&Iを扱うマネジメント研修を提供しています。多様性を理解する前には、抑えておくべきポイントがあります。これを曖昧にしたままでは、D&Iは理念で止まり、現場は消耗し続けます。
▶ 年度末の再編前に、今どこで判断が止まっているのかを整理しませんか。30分で構造が見えます。
D&Iを“理念”でなんとかする、多様性を“施策”で扱うのではなく、“構造”として設計することが整えていくための最短ルートです。


























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