障害者福祉の就労系障害福祉サービスには、就労移行支援事業の他に、就労継続支援A型事業、就労継続支援B型事業、就労定着支援事業があります。就労継続支援B型は、一般的に雇用されることや、雇用契約に基づく就労が困難な障害者が利用するところという認識があります。
しかし、千葉県富津市にあるAlon Alon Orchid Garden(アロンアロンオーキッドガーデン)では、就労継続支援B型作業所ですが、工賃最高10万円(令和元年 平均工賃16,369円、出典:令和元年度工賃(賃金)の実績について(厚生労働省))、就職率100%(平成23年 就職率1.6%、出典:社会福祉施設等調査)という驚異的な結果を出しています。
どうしてこのような圧倒的な結果を出せるのか、実際にB型作業所を運営していく上での視点や、障害者の方がどのように働いているのかについて、NPO法人AlonAlon理事長 那部智史様にお話をお聞きしました。
インタビューは、全部で5回の記事になっており、今回はその2回目です。2回目では、「障害者が作っているものだから買おう」ではない商品づくりをするための工夫や、AlonAlon を支えてくれるストーリーについてお聞きしていきます。
ストーリーを活かした商品づくり
Q:「障害者が作っているものだから買おう」ではない商品づくりや、リピートされるために、どのようなことを意識されていますか。
A:立派な胡蝶蘭を作ることも当然大切なのですが、それに加えて「ストーリーのある胡蝶蘭」を意識しています。「立派な胡蝶蘭が2つあります。値段も品質も変わりません。どちらを購入しますか。」という話です。
一般的な世の中、社会は、健常者がつくって、健常者が支配しているわけです。障害者は、何も悪いことをしているわけではないけれど、健常者がつくって支配している世の中では生きづらいことがあります。そこに対して、適切な配慮をしましょうというのは、ある意味健常者の義務かなと思っているんです。SDGsの精神にもあるわけですよね。それによってみんなが取り残されない社会を作っていくことができると思っています。障害者という部分を切り取ることは嫌いなんですけれど、そういうストーリーをちゃんと理解してもらって、それを活用するという意味においては、私たちはしっかりと利用しています。
ただ、そこには下から目線で「お願いします」じゃなくて、フェアな取引として選んでもらっているという自負があります。要はストーリーのあるお花を注文する人もいるし、包装紙の立派なお花を注文する人もいるでしょう。それはフェアな戦いでいいと思うんです。また、AlonAlonで大切にしているのは、立派な包装紙に見劣りするような胡蝶蘭は絶対につくらないということです。値段も品質も他の高額な胡蝶蘭と一緒というのが、私たちのプライドになっています。
AlonAlon を支える第1のストーリー:バタフライサポーター
Q:障害者が何か商品をつくったり、生産しているような会社や施設では、販売先を開拓することがとても大変だと言われますが、AlonAlonさんではどのように流通するような仕組みを作られているのでしょうか。
A:私は、先ほども話したようにストーリー作りをとても重要視しているんです。それは、小難しいことを言わなくても、みんなの心に入っていきやすいからです。その中で、バタフライサポーターという制度を作って、ストーリーの説明をしています。
胡蝶蘭の99%は、法人が使うものとなっています。個人で、胡蝶蘭を買う人はほぼいません。例えば、私は講演会に行くと、200~300人の聴衆がいらっしゃいます。最初に「胡蝶蘭を買ったことがある人いますか。」と聞くと、だいたい10人くらいの手が上がります。ちなみに講演に参加くださる方は、障害当事者の親御さんだったり、福祉の人たちだったりするので、胡蝶蘭にあまり縁がある人ではありません。
その後に聞き方をちょっと変えて、「では、母の日とか父の日、おじいちゃんおばあちゃんの誕生日、パートナーとの記念日やイベントで、お花を贈ろうと思っている人はどれくらいいますか。」と聞くと、だいたい6割から7割の手が挙がるんですよ。母の日が一番多いんですけれど、そういう方たちに対して、「次の母の日に1万円のお花を贈ろうと思う人がいるなら、バタフライサポーターとして購入しませんか。」って声をかけます。
胡蝶蘭の苗って1個1000円なんですよ。10個買ってくださいとお願いするんですね。これがバタフライサポーターになります。この10個の胡蝶蘭の苗は、母の日から逆算すると半年で出荷することができます。ですから、半年前に胡蝶蘭の苗がAlonAlonオーキッドガーデンに入ると、半年後の母の日の直前に10本の胡蝶蘭になります。1本1万円で売れる胡蝶蘭になるわけです。その1本を使って、お花屋さんで買えば1万円するようなアレンジメントフラワーや花束にしたり、1本立ての胡蝶蘭にして、母の日にバタフライサポーターの方のお母さんにお届けします。残りの9本は企業に販売して、B型事業所で働いている利用者の工賃になるというストーリーになります。
これは思い浮かべていただくと、すごく皆の気持ちに入っていきやすいストーリーだと思うんですね。そして、実際にすごく共感をいただいています。今は、2000人を超えるバタフライサポーターの方がいて、AlonAlonオーキッドガーデンに納入される苗のすべてがバタフライサポーターさんのお金で賄われています。これが第1のストーリーです。
AlonAlon を支える第2のストーリー:AlonAlonアンバサダー
今、バタフライサポーターさんが全国に2000人いるとお話しましたが、そのうちの14%の方が、バタフライサポーター以外の動きもしてくださっています。どのような動きかというと、うちの事務局に胡蝶蘭のカタログがあります。このカタログを送ってほしいと言ってくださる方をAlonAlonアンバサダーと呼んでいます。
アンバサダーの方は、このカタログを自分の勤めている会社の社長さんだったり、部長さんだったり、お花を注文する決済者の方に渡していただいて、胡蝶蘭を購入する時には、AlonAlonの胡蝶蘭を注文してくださるんです。
また、営業をしている方もいらっしゃって、商談のときの雑談の中で「実はこんなボランティアをしていまして、御社もお花を贈るんだったら、障害者の方が頑張っているので、ここをお願いします」と配ってくれるんです。これがAlonAlonの大きなパワーになっていて、半年に100社くらい、年間に200社くらいお花を注文して頂ける企業が増えているんです。これが販路の開拓で一番大きなところとなっています。
もちろん私がメディアにでたり、インタビュー記事を読んだりしたのを見て、そこから問い合わせをいただくこともありますが、全体のベースを作っていただいているのは、バタフライサポーターから発したアンバサダーの方ですね。
購入してから半年後に手元に届くこともストーリーの一部
Q:購入してから手元に届くまでに一定の時間がかかることは、ビジネスをする上でネックにならないのでしょうか。
A:実は、購入してから胡蝶蘭が育っていく半年の空白の時間もストーリーになっているんです。商取引というのは、「なるべく早く、なるべく安く」というものがありますが、胡蝶蘭はそこに逆行しているわけですよ。しかし、その半年はストーリーになるんですお。自分たちが支援した苗が成長して花を開いて、出荷してその一部が自分のお母さんに届くという流れが、すべてストーリーになっています。
お花屋さんで同じ金額でお花を買うことは可能ですが、AlonAlonで提供するようなストーリーはついていません。この半年のストーリーも含めて、お母さんにプレゼントすることができるというのが、AlonAlonオーキッドガーデンから購入できる胡蝶蘭なんです。
Q:そのようなストーリーは、お花を送るときに一緒に何か伝えるようにしているんですか。
A:いえ、AlonAlonからはしていません。それは、おそらくご本人が伝えているんですよね。本人が伝える価値というものがあると考えています。世の中では、お手軽に何でも簡単にわかるような時代というものがきていますけれど、私たちは逆行していることをしています。半年間待たなければいけないですし、なおかつディスカウントもできない。ただ贈られるだけであれば、普通の胡蝶蘭と変わりません。しかし、そこに送り手として、「実はこの胡蝶蘭は、このようなストーリーがあってね・・・。」というのは、大きな付加価値になると思っています。
また、半年待たない、いわゆる企業向けのお花であっても、大々的にこの胡蝶蘭は障害者が作っていますとは、宣伝することはありません。でも、送ってくださる社長さんが、ある機会に送った先の社長さんにお会いした時に「実はこの前送ったときの胡蝶蘭は、こういうストーリーがあるんだよね。」というストーリーを伝えられるようにしておくことも大事かなと思っています。そこは、送り手のセンスに任せています。
もちろんAlonAlonオーキッドガーデンというステッカーは貼っています。でも、特別に何か宣伝するということはしていないんです。胡蝶蘭に札をつけて、この胡蝶蘭は障害者の方が作ったんですということはしません。それをやると、とたんにセンスがなくなるんですね。私は送った方の一つのアクションも、一つの価値になるのではないかと思っています。
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