障害者雇用は、組織の“成熟度”を映す鏡―進む企業と止まる企業の違い―

障害者雇用は、組織の“成熟度”を映す鏡である― 進む企業と止まる企業を分ける“構造”の違い ―

2026年01月26日 | 判断とマネジメントの構造

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障害者雇用についての相談を受けていると、企業ごとに“明確な差”が見えてきます。
同じ制度のもとで、同じ法改正に対応し、同じように人材確保に悩んでいるはずなのに、自然に進んでいく企業と、「何から手をつけていいかわからない」と立ち止まってしまう企業に分かれていきます。
これは、制度が複雑だからでしょうか。担当者の熱意が足りないからでしょうか。企業規模の違いでしょうか。実際の現場を見ていると、そうとも言い切れません。

むしろ、どちらの企業も、できることはやろうとしています。調べ、相談し、工夫しようとしています。それでも進み方に差が生まれる。
この違いは、努力量の差というより、もう少し根本にあるものの違いではないかと感じることが増えてきました。
障害者雇用をきっかけに見えてくるのは、「雇用のやり方」の違いではなく、企業がこれまでどのように仕事を回してきたか、という組織のあり方そのものなのかもしれません。
ここから先は、その点について少し整理してみたいと思います。

これは「障害者雇用の得意・不得意」ではない

ここで、少し視点を変えてみます。
うまく進んでいる企業と、立ち止まっている企業の差は、「障害者雇用が得意か、不得意か」という違いなのでしょうか。
もちろん、制度の知識や経験がまったく影響しないわけではありません。けれど、実際の現場を見ていると、それだけでは説明がつかない場面が多くあります。
障害者雇用のノウハウを学び、情報を集め、努力している企業でも、「どう動けばいいのか分からない」という状態に陥ることがあります。一方で、特別な専門知識がなくても、自然に進めている企業もあります。
この違いは、障害者雇用そのものの難易度の問題ではなく、もう少し土台に近い部分に理由があるように感じます。それは、組織の成熟度の差です。
ここでいう成熟度とは、規模の大きさや歴史の長さではありません。
仕事の進め方がどれだけ整理されているか。
判断の前提がどれだけ共有されているか。
役割や責任の範囲がどれだけ明確になっているか。
そうした、組織の“構造の整い具合”のことです。
障害者雇用は、その構造がどの段階にあるのかを、思いがけずはっきりと映し出してしまう場面でもあるのです。つまり、組織の成熟度とは、人の善意に頼らなくても仕事が回る構造を持っているかどうか、ということです。

障害者雇用で露呈する“組織の構造”

障害者雇用は一見すると、「例外的な人にどう対応するか」という個別対応の話に見えます。しかし実際に問われているのは、個人への接し方以上に、組織の構造そのものです。
たとえば、次のような点です。
・判断の前提が共有されているか
どのような基準で「業務として扱うのか」「調整が必要なのか」を判断するのかが、言葉になっているか。

・役割が整理されているか
担当者、上司、人事、それぞれがどこまで担うのかが明確になっているか。

・業務が構造化されているか
仕事が個人の裁量や経験だけに依存せず、分解・再設計できる状態にあるか。

・相談が仕組みとして存在するか
困ったときに、関係性や善意ではなく、戻れるルートがあるか。

これらが整っている企業では、障害者雇用は特別な取り組みとしてではなく、既存の仕事の流れの延長線上で進んでいきます。大きな混乱もなく、「どうすれば仕事として回るか」という視点で調整が行われます。
一方で、これらが曖昧なままの企業では、判断がその都度の感覚に委ねられ、対応が個人依存になり、やがて「何から手をつけていいのかわからない」という状態に立ち止まります。
つまり、障害者雇用が進むかどうかを分けているのは、人材の特性よりも、組織の構造がどれだけ整っているかなのです。

二極化が起きる理由

では、なぜここまで差が広がるのでしょうか。
制度が難しいからでしょうか。確かに法改正や手続きは簡単とは言えませんが、情報を調べれば辿り着ける内容でもあります。
人が難しいからでしょうか。しかし、雇用される一人ひとりの特性は違っていて当然で、それ自体が特別な時代に入ったわけではありません。
現場を見ていると、二極化が生まれる理由は別のところにあります。
構造が未整備なまま、これまで「善意」で仕事を回してきた組織ほど、ここで立ち止まりやすいのです。
・誰かが気づいてフォローする。
・困っていそうなら調整する。
・人の経験と配慮に頼って、その都度なんとか乗り切る。
こうしたやり方は、これまでは機能してきました。だからこそ問題に見えにくかったのですが、違いがより多様になった今、その方法では支えきれなくなります。
これは、人の問題ではなく「判断の前提や仕事の設計が整理されていない」という構造の問題です。
障害者雇用がうまく進まない場面で起きていることは、やる気や思いやりの不足ではありません。善意だけでは回らなくなった組織の構造が、表に出てきているということなのです。
この点に気づけるかどうかが、次の一歩を踏み出せるかどうかの分かれ目になっています。

成熟度の違いが表れる場面

組織の成熟度の差は、抽象的な概念ではなく、日々の現場の中に具体的な形で表れます。
たとえば、障害者雇用に関する対応が「担当者任せ」になっている企業では、その人の経験や人柄に大きく依存する状態が生まれます。「この件は◯◯さんに聞けば大丈夫」といった安心感の裏で、業務の構造や判断の基準が共有されないまま進んでいきます。
また、判断が個人依存の企業では、同じような場面でも人によって対応が変わります。ある上司は「配慮が必要」と判断し、別の上司は「通常業務の範囲」と判断する。その違いが、現場の混乱や不公平感につながることも少なくありません。
さらに、相談経路が曖昧な企業では、困ったときに誰に相談すればいいのかが明確でないため、結果的に担当者や上司が抱え込む構造が生まれます。「とりあえず様子を見る」「もう少し頑張ってみる」といった対応が続き、課題が見えにくいまま蓄積していきます。
一方で、成熟度の高い企業では様子が異なります。
判断基準が共有されている企業では、個人の感覚ではなく、組織としての基準に基づいて対応が行われます。そのため、現場の負担や迷いが過度に偏ることがありません。
業務設計がされている企業では、仕事が個人の力量だけに依存せず、分担や調整が前提に組み込まれています。結果として、誰か一人が無理をして支える構造になりにくいのです。
そして、相談の流れがある企業では、「困ったらここに戻る」というルートがはっきりしています。そのため、問題が深刻化する前に、組織として調整がかかります。
こうした違いは、障害者雇用に限らず、組織がどのように仕事を回しているかという日常のあり方の違いでもあります。

障害者雇用は“組織診断”の場である

ここまで見てきたことをまとめると、障害者雇用は「特別な人への対応」という個別テーマにとどまらないことが分かります。
障害者雇用そのものが難しい、というよりも、これまで見えにくかった組織の前提が、ここではっきりと表に出てくるのです。
・判断は誰が担っているのか
・役割はどこまで整理されているのか
・仕事は構造として分けられているのか
・相談は仕組みとして機能しているのか

普段は何となく回っていた部分が、障害者雇用をきっかけに、「本当に共有されているのか」「構造になっているのか」と問い直されます。だからこそ、ここでつまずくこと自体が問題なのではありません。むしろ、組織の現在地を知る機会とも言えます。
障害者雇用は、組織の弱点を暴くものではなく、組織の成熟度を測るリトマス試験紙のような役割を果たしているのです。ここで見えてきた課題は、障害者雇用だけに限らず、これからの組織運営全体に関わるテーマでもあると言えます。

だから必要なのは「雇用支援」だけではない

ここまで見てくると、障害者雇用に必要なのは「採用の方法」や「配慮の工夫」といった個別の対応だけではないことが分かります。
もちろん、雇用に関する制度理解や、現場での対応力も大切です。けれど、そこでつまずきが生じている場合、その背景には組織の土台に関わる課題が横たわっていることが少なくありません。
本当に必要なのは、障害者雇用をきっかけに、組織の前提そのものを見直すことです。
たとえば、判断の整理。誰がどこまで判断するのか、基準を含めて明確にすること。
役割の整理。担当者任せにせず、上司、人事、関係部署がどのように関わるのかを構造として捉えること。
業務設計の整理。仕事を個人の経験や善意に依存させず、分解し、再構成できる状態にしておくこと。
そして、相談構造の設計。困りごとが生じたときに、個人の関係性ではなく、仕組みとして戻れるルートを持つこと。
これらはすべて、障害者雇用だけのためのものではありません。組織が継続的に機能するための土台そのものです。
障害者雇用で見えてきた課題は、組織にとっての弱点ではなく、組織の土台を再設計するタイミングが来ているというサインなのかもしれません。
障害者雇用の場面で立ち止まることは、決して失敗でも、時間の無駄でもありません。むしろ、これまで当たり前に回っていた仕事の前提を見直す機会が訪れた、ということでもあります。
課題が表に出てくるのは、問題が増えたからではなく、これまで見えにくかった部分が、見えるようになったからです。そしてそれは、組織が一段階成長するためのタイミングでもあります。
障害者雇用というテーマを通じて整理された判断や役割、業務設計、相談の仕組みは、その後の組織運営全体を支える土台になります。障害者雇用で見えてくる課題は、組織の弱点ではなく、次の成熟段階への入り口なのかもしれません。あなたの組織は、いまどの段階にいるでしょうか。

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