ここ最近、企業の人事担当者や現場責任者の方から、こんなご相談をいただく機会が増えています。
「休職者が続いてしまっている」
「メンタル不調の相談が明らかに増えた」
「現場の上長が一人で抱え込んでいる」
「早めに対応したい気持ちはあるが、何をすればよいのか分からない」
制度としては、ストレスチェックも実施している。相談窓口もある。人事としてもできることはしている。それでも、気がつくと不調が深刻化した状態で共有され、対応が難しくなってから動くことになる——そんな状況に心当たりのある企業も多いのではないでしょうか。
「不調者が増えている」という感覚そのものは、決して間違いではありません。実際に、業務負荷の変化や働き方の多様化などを背景に、不調を抱える社員は確実に存在しています。
ただ、現場を見ていると、もう一つの見え方が浮かび上がってきます。それは、「不調が増えている」というよりも、不調に気づき、対応につなげるタイミングが後ろにずれているという構造です。
もしこの視点で捉え直したら、今感じている難しさの中身も、取り組み方も、少し違って見えてくるかもしれません。
この記事では、
・不調のサインが「見えているのに動けない」理由
・制度があるのに後手に回る“点と線”の違い
・現場の負担を増やさずに早期対応につなげる見直し視点
を整理します。
休職は突然ではない:見過ごされやすい前兆
休職や長期離脱につながるケースは、周囲から見ると「急に悪くなった」ように感じられることが少なくありません。しかし、実際の現場を振り返ると、本当に何の前触れもなく状態が悪化する人はほとんどいないのが実情です。
多くの場合、その前には小さな変化がいくつも重なっています。
例えば、
・これまで安定していた勤怠に、遅刻や早退が少しずつ増える
・業務に関する確認や相談が増え、「自信のなさ」がにじむ
・表情が硬くなり、反応が遅くなる、笑顔が減る
・周囲とのやりとりが減り、雑談やちょっとした声かけにも乗らなくなる
こうしたサインは、決して珍しいものではありません。むしろ、多くの職場で日常的に見られている変化です。
問題は、それらが「見えていない」ことではなく、見えてはいるけれど“判断材料”として扱われていないことにあります。
「最近ちょっと疲れているのかな」
「忙しい時期だから仕方ないかもしれない」
といった解釈の中で、重要なサインが“気になる出来事”のまま流れていってしまうのです。
つまり、不調の兆しはすでに現場に現れていることが多いにもかかわらず、それが「次の対応につなげるための情報」になっていない。
この視点に立つと、「不調に気づけない」のではなく、気づいた後の扱い方が定まっていないという課題が見えてきます。
制度はあるのに機能しない理由:点が線になっていない
「うちの会社は不調に気づけていないのではないか」と感じる担当者の方も少なくありません。しかし実際には、多くの企業ですでにさまざまな仕組みが動いています。
・ストレスチェックを実施している
・勤怠管理で出退勤の状況を把握している
・相談窓口や外部相談サービスを設けている
・人事面談やフォローの場も用意している
つまり、不調に関する情報そのものは、社内のどこかに必ず存在しているケースがほとんどです。
それでも、対応が後手に回ってしまうのはなぜか。理由の一つは、それぞれの仕組みが「点」として存在していることにあります。
例えば、
・ストレスチェックで気になる結果が出ても、その情報が現場の対応とどう結びつくのかが明確でない。
・勤怠の乱れが見えても、それがどの段階で誰に共有され、何を検討するのかが決まっていない。
・相談窓口があっても、「どんな状態なら案内するのか」の共通イメージがない。
それぞれの取り組みは間違っていないし、個別には機能もしています。しかし、「このサインが出たら次は何をするか」という流れが設計されていないため、情報がその場で止まってしまうのです。
その結果、どうなるか。不調のサインは出ているのに、具体的な動きにつながらないまま時間が経ち、状態が悪化してから初めて人事に共有される。そしてそのときには、配置変更や休職対応など、選択肢が限られた段階になっていることが多くなります。
ここで見えてくるのは、「仕組みがない」問題ではなく、仕組み同士をつなぐ“線”が設計されていない問題です。不調者対応を機能させるために重要なのは、新しい制度を増やすことよりも、すでにある取り組みが一つの流れとして動く状態をつくることなのです。
ここまで読んで、「うちも同じかもしれない」と感じた場合、それは現場の努力が足りないのではなく、流れが見えにくい構造になっている可能性があります。
上長が抱え込むのは“意識”ではなく“流れ”の問題
不調への対応が遅れるとき、 「現場が気づいていない」「上長が対応していない」と受け止められることがあります。しかし、実際の現場に入って話を聞くと、多くのリーダーはむしろ悩みながら対応していることがほとんどです。
決して、関心がないわけでも、放置したいわけでもありません。よくあるのは、こんな状態です。
・気になる部下に声をかけたら、自分が最後まで面倒を見ることになるのではないかと感じる
・どこまで関わるのが「リーダーの役割」なのか分からない
・人事や相談窓口につなぐタイミングや方法が明確でない
つまり、「気になっている」し、「何とかしたい」と思っている。けれど、その先の流れが見えないために、動き出しにくいのです。
その結果として起きやすい流れは、次のようなものです。
まずは、少し様子を見る。次に、個別に声をかけながら何とかしようとする。それでも改善しないまま時間が過ぎ、状態が限界に近づいてから、ようやく人事に共有される。
ここで重要なのは、これは「リーダーの意識の問題」ではないという点です。多くの場合、問題は「どう動けばよいか」が設計されていないことにあります。
声をかけた後、どこに、どんな情報を、どの段階で共有すればよいのか。どこまでが現場の役割で、どこからが人事の役割なのか。それが見える形になっていないと、現場は自然と抱え込む方向に流れてしまいます。
不調者対応を前に進めるためには、「もっと気づいてほしい」と現場に求めること以上に、気づいたあとに迷わず動ける“流れ”を用意することが鍵になります。視点を「人」から「設計」へ移すことで、初めて負担を増やさずに機能する対応が見えてきます。
「不調者が増えている」と感じる本当の理由
「最近、不調者が増えている」という声は、決して大げさではありません。現場の負荷や環境の変化によって、心身に影響が出やすい状況があるのも事実です。
ただ、企業の現場を見ていると、もう一つの見え方が浮かび上がってきます。それは、不調そのものが急増しているというより、“悪化するまで把握されない構造”が続いているということです。
不調は多くの場合、いきなり深刻な状態から始まるわけではありません。初期の段階であれば、対応の選択肢は比較的多く、負担の軽い調整で済むケースも少なくありません。
例えば、
・一時的な配置や業務量の調整
・業務の優先順位や進め方の整理
・関わり方やコミュニケーションの見直し
こうした対応は、大きな制度変更や特別な配慮というより、日常のマネジメントの範囲にあるものです。早い段階であればあるほど、現場と本人双方にとって無理のない形で進めやすくなります。
しかし、サインが見過ごされ、情報が流れず、対応が遅れると、状態は徐々に重くなっていきます。その結果、選択肢は限られ、「休職」や「長期離脱」といった大きな対応が必要な段階で初めて共有されることになります。
こうして振り返ると、「不調者が増えている」というよりも、本来もっと早い段階で見えていたはずの人が、遅れて表に出てきているという構造が見えてきます。
つまり、増えているのは“不調者の数”だけではなく、“早く気づけなかったことの結果”が一度に現れている状態なのかもしれません。
企業が見直すべきなのは「人」ではなく「流れ」
ここまで見てきたように、不調への対応が難しくなる背景には、「気づきが遅れる」「現場が抱え込む」「情報がつながらない」といった状況があります。
これらを前にすると、つい「もっと気づいてほしい」「もっと声をかけてほしい」と“人の動き”に目が向きがちです。しかし、本当に見直すべきなのは「人」そのものではなく、人が動くための“流れ”の設計です。
どんなに意識が高くても、迷いが生まれる構造のままでは、現場も人事も負担を抱え続けることになります。逆に、流れが整っていれば、特別な努力をしなくても自然と対応が早まる状態をつくることができます。
例えば、見直す視点として考えられるのは次のような点です。
まず、どの状態を「黄色信号」と見るのかという点です。「何となく気になる」ではなく、「この変化があったら一度共有する」といった共通の目安があるだけで、迷いは大きく減ります。
次に、現場が迷ったときの相談ルートが見えているかどうかです。「誰に」「どの程度の情報を」「どの段階で」伝えればよいのかが明確であれば、抱え込まずに動きやすくなります。
また、情報が止まらず流れる設計になっているかも重要です。ストレスチェック、勤怠情報、相談内容などが、それぞれの場所で完結せず、次の対応につながる形になっているかどうかが鍵になります。
さらに、相談窓口が「最後の砦」になっているかという視点も欠かせません。限界に近い状態の人だけが使う場所ではなく、迷った段階で使える“途中の選択肢”として位置づけられているかどうかで、役割は大きく変わります。
ここで大切なのは、すぐに新しい制度や仕組みを増やすことではありません。まずは、「今ある取り組みが、どんな流れの中で動いているのか」という視点を持つこと。
これが不調者対応を「個別の対策」ではなく、「発見から対応までの流れ」として捉え直すことが、負担を増やさずに機能を高める第一歩になります。
これは障害者雇用にも共通する話
ここまでお伝えしてきた内容は、メンタル不調への対応に限った話ではありません。実は、障害者雇用の現場でも、まったく同じ構造が見られます。
配慮が必要な社員がいるとき、多くの企業が戸惑うのは、本人の特性そのものよりも、「誰がどう関わるのか」「どこまでが現場の役割か」「困ったときはどこにつなぐのか」といった運用面です。
つまり、問題は「個人の特性が難しい」ことよりも、組織側の運用設計が整っていないことにあるケースが少なくありません。
例えば、業務の切り出し方が曖昧だったり、相談の流れが見えなかったりすると、現場はどうしても不安を抱えやすくなります。その結果、「特別な対応が必要で大変そうだ」という印象が先に立ち、雇用そのものへのハードルが高く感じられてしまいます。
一方で、役割分担や情報共有の流れが整理されている組織では、配慮が必要な社員がいても、特別なことをしているという感覚はあまりありません。日常のマネジメントの延長として、調整や相談が自然に行われています。
これは、メンタル不調への対応と同じ構図です。「気になる変化にどう気づき」「どうつなぎ」「誰がどう関わるか」という流れがあるかどうかが、対応のしやすさを大きく左右します。
多様な人が働く組織であるほど、この“流れの設計”は重要になります。メンタル不調への対応を見直すことは、そのまま、多様性に対応できる組織づくりにもつながっています。
不調対応の話から始まったように見えて、実はこれは、多様な人が働き続けられる組織をどうつくるかというテーマそのものなのです。
「増えている」のではなく「遅れて見えている」
「不調者が増えている」という実感は、多くの企業に共通するものです。ただ、ここまで見てきたように、その背景には、不調そのものの増加だけではなく、“気づきと対応のタイミングが後ろにずれている構造”が関係していることが少なくありません。
不調者対応は、特別な支援を用意することだけでは成り立ちません。本質は、「発見 → 共有 → 相談 → 調整」へとつながる流れの設計にあります。
早い段階で気づける構造を持つ組織では、配置や業務の調整、関わり方の見直しといった比較的軽い対応で済むことが多く、現場の負担も大きくなりにくい傾向があります。一方で、流れが途切れていると、不調は見過ごされ、対応が難しい段階で表に出てくることになります。
新しい制度を増やす前に、まずは、すでにある仕組みがどのようにつながっているのかを見直すこと。ストレスチェック、勤怠管理、相談窓口、人事面談といった取り組みを、一つの流れとしてどう動かすかが鍵になります。
「増えている」という現象を入り口に、「なぜ遅れて見えているのか」という視点で捉え直すことが、組織全体の負担を減らしながら対応力を高める第一歩になるのではないでしょうか。
もし
・休職者が増えている
・現場が抱え込んでいる
・制度や窓口はあるのに機能していない
と感じている場合、問題は「個人」ではなく、組織の運用設計(流れ)にあるかもしれません。
どこで気づき、どこで止まり、どこにつながりにくいのか。現状整理と“流れの見える化”から一緒に確認できます。
まずは状況共有から、お気軽にご相談ください。


























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