企業の戸惑いは自然な反応です— 難しくなったのではなく、問われる場所が変わった
障害者雇用に真剣に取り組んでいる企業ほど、ある共通した戸惑いを抱えています。
「思っていたより難しい」
「現場が疲れてきている」
「担当者がずっと抱え込んでいる」
制度を理解し、採用も進め、配慮もしている。それでも、なぜか手応えが軽くならない。むしろ、関わる人ほど消耗していく――。こうした声は、決して珍しいものではありません。
そしてここで大切なのは、企業が未熟だから起きているわけではない ということです。多くの場合、企業はむしろ誠実に取り組んでいます。制度も守り、配慮も重ね、現場も工夫している。それでも難しさが消えないのは、努力不足ではなく、難しさの“質”が変わってきているから です。
かつての障害者雇用は、「どの業務を切り出すか」「どんな環境調整をするか」といった、比較的“作業”のレベルで整理しやすい領域が中心でした。しかし今は、業務の進め方、関係性のあり方、判断の置きどころといった、仕事を回している“前提”の部分 が揺さぶられる場面が増えています。
だからこそ起きているのは、「うまくやれていない企業の問題」ではなく、これまで当たり前に共有されてきたマネジメントの前提が、そのままでは通用しにくくなっているという変化です。
言い換えるなら、こういうことです。障害者雇用が難しいのではない。多様な人が働く前提のマネジメントが、まだ共有されていない。
企業が感じている戸惑いは、後ろ向きなサインではありません。むしろそれは、組織が次の段階に入ろうとしているときに現れる、ごく自然な反応なのです。
「人の問題」に見えるとき、実は揺れているのは“仕事の構造”
企業がつまずいたとき、現場からよく聞こえてくる言葉があります。
「この人に合う仕事がない」
「対応が難しい」
「現場が回らない」
どれも現場の実感として、とてもリアルな言葉です。実際に困っているからこそ、出てくる声でもあります。けれどここで、一段引いて見てみると、少し違う景色が見えてきます。
表面に見えている困りごとの奥では、こんなことが起きているケースが少なくありません。

たとえば、「指示が伝わらない」と感じる場面。これは能力の問題に見えやすいですが、実際には「この職場では何が当たり前なのか」「どこまでが暗黙で、どこからが明示されるべきか」といった業務の前提が共有されていないことが原因になっていることも多くあります。
また、「配慮が増えて大変」という状況。これは配慮そのものが問題なのではなく、どこまでが業務で、どこからが調整なのかという境界が曖昧なまま、現場の判断に委ねられている状態が背景にあります。
そして、「担当者が疲弊する」ケース。これは仕事量だけの問題ではなく、何をどこまで自分が判断してよいのか、誰に上げるべきなのかが整理されていないまま、判断が個人に集中している構造が影響しています。
つまりここで起きているのは、「人の特性が難しい」という話ではなく、仕事の設計と、判断がどこに置かれているかという“構造”の未整理 です。
人に合わせる工夫だけを重ねても、その人が乗っている仕事の土台が整理されていなければ、困りごとは形を変えて繰り返し現れます。
だからこそ今、必要なのは「どう対応するか」を増やすことだけでなく、仕事はどんな前提で回っているのか、判断はどこで行われているのか を構造として見直していく視点なのです。
見落とされがちな組織リスク— 担当者任せ構造が起きていないか
ここまでの話は、「難しさの正体は構造にある」という視点でした。もう一つ、企業にとって見逃せないポイントがあります。それが “担当者任せ構造” です。
多くの企業で、こんな流れが起きています。
現場で困りごとが起きる
→ 誠実な担当者が引き受ける
→ 個別対応が少しずつ増えていく
→ 対応のノウハウがその人の中に蓄積される
→ 気づけば属人化している
→ その人が限界に近づく
どの段階も、悪意はありません。むしろ、「何とかしよう」と動いた結果です。だからこそ、この構造は気づかれにくいのです。問題は、担当者が頑張りすぎていることではありません。本当の理由は一つです。判断が「人」に乗っていて、「構造」に置かれていないこと。
どこまで現場で判断してよいのか、どのケースは誰に上げるのか、配慮は業務の中でどう位置づけられているのか、これらが構造として整理されていないと、判断は自然と“抱えられる人”のところに集まっていきます。
すると何が起きるか。
・担当者の離職リスクが高まる
・現場の疲弊が慢性化する
・対応のやり方が再現されず、組織としての蓄積が残らない
・結果として、雇用が続かない
これは「人が足りない」問題ではありません。判断を人に預けたまま、構造に置き換えていないことのリスクです。障害者雇用の難しさは、ここで一気に“人の問題”に見えます。けれど実際には、組織の側で「判断をどこに置く設計にしているか」が問われているのです。
本当に必要なのは「支援」より先に「整理」— 判断・役割・業務設計の再構築
ここまで見てきたように、現場が疲弊していくとき、企業は自然とこう考えます。
・もっと配慮の方法を知る必要があるのではないか
・もっと専門的な対応ができる人が必要なのではないか
もちろん、知識や工夫は大切です。けれど多くの企業が本当に困っているポイントは、そこではありません。企業が求めているのは、配慮の“やり方”の追加 よりも先に、仕事の前提そのものの整理 です。
たとえば、こんなことが曖昧なままになっていないでしょうか。
・何をどこまで「業務」として扱うのか
・どこからが個別調整なのか
・誰が、どのレイヤーで判断する構造になっているのか
・困りごとは、どの段階でどこに上がる設計なのか
これらが整理されないままでは、配慮はどうしても「例外対応」になり、現場の善意と裁量に依存する形になります。そこで必要になるのが、「支援を増やすこと」ではなく、構造を整えることです。
流れで見ると、こうなります。
・判断の整理
まず、何を誰がどこで決めるのかを構造として置く。「その場の人の判断」ではなく、「設計された判断」にする。
・役割の整理
次に、業務と調整の境界、現場と管理の役割、個人の裁量と組織の責任の範囲を明確にする。
・業務設計の再構築
そして最後に、実際の業務の切り方・流れ・連携の形を見直す。人に合わせるのではなく、多様な前提でも回る設計にしていく。
この順番で整っていくと、配慮は「特別な対応」ではなくなります。それは業務の外にぶら下がるものではなく、業務の中に組み込まれた“通常の仕事の一部” になります。だからこそ、いま企業に必要なのは「支援を増やすこと」ではなく、働く場の設計を整理し直すこと なのです。
支援しているのは「対応」ではなく「組織設計」です
ここまで読んでいただくと、「必要なのは支援より整理」という意味が、少し見えてきたのではないでしょうか。
私たちが行っているのは、現場の代わりに個別対応を引き受けること、個別の支援ノウハウだけを提供することではありません。
もちろん、現場の工夫や配慮の知識も大切です。けれど、それだけでは根本の負担構造は変わりません。私たちが専門としているのは、もっと土台の部分です。
✔ 組織の中で、判断がどこに置かれているかの可視化
✔ 業務と調整の境界の整理
✔ 担当者任せにしないための構造設計
✔ 多様な人が働くことを前提にしたマネジメント設計
つまり、障害者雇用を「対応業務」として抱え続ける状態から、組織全体の設計テーマへと引き上げる支援 を行っています。
個別の困りごとを一つずつ処理していくのではなく、「なぜ同じような負担が繰り返し発生するのか」という構造に目を向け、再現性のある形で整理していく。
そこに、私たちの専門性があります。
障害者雇用を「対応業務」から「設計テーマ」へ
障害者雇用が難しいのではない。多様な人が働く前提のマネジメントが、まだ共有されていない。
この違いに気づいたとき、障害者雇用は「負担の増える業務」から、「組織を整える入口」へと意味が変わります。
では、あらためて問いを置きます。
あなたの組織では、障害者雇用は「対応」になっていますか?それとも「設計」のテーマになっていますか?
この問いの向き先が、これからの組織の姿を分けていきます。
このような「判断の整理」「役割の整理」「業務設計」の見直しは、障害者雇用を「対応」から「設計」のテーマへと変えていくために重要です。
私たちは、現場の負担構造を整理し、組織全体の設計として落とし込む支援を行っています。
詳しくは以下のサービス一覧をご覧ください。


























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