特例子会社は、大企業が設立するというイメージが強くありました。それは、障害者雇用率を親会社やグループ会社内で雇用したものとみなして、その雇用率に算定できるという制度を活用することのメリットを活かして、障害者が働きやすい環境や、障害者に合った仕事をつくり、企業規模を生かした障害者雇用に取り組みやすくしてきたからです。
しかし、企業の大小に関わらず、障害者が働ける業務を作り出すことが厳しい状況も見られています。また、中小企業だからこそ、特定の仕事のボリュームが少なかったり、仕事の幅が多岐に渡ることが求められていることもあり、中小企業向けに特例子会社と同じような仕組みができないかと検討されてきました。
そんな中で、2019年度から中小企業が事業協同組合等を活用して協同事業を行い、事業協同組合(特定組合)等とその組合員である中小企業(特定事業主)で実雇用率を通算できる事業協同組合等算定特例という制度ができました。
この事業協同組合等算定特例とは、どのようなものなのか、実際にどのように活用されているのかについて見ていきます。
事業協同組合等算定特例とは
特例子会社制度は、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立した場合、一定の要件を満たすことによって、その子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなし、実雇用率を算定することができる制度です。
特例子会社には、いくつかの種類がありますが、一般的に特例子会社で雇用している障害者の雇用率を、親会社(関係会社)の雇用率とみなすことや、一定の基準を満たすことによってグループ会社でも実雇用率として算定できるものが多く活用されています。これらは、基本的に資本関係がある企業同士で行わることになります。
しかし、事業協同組合等算定特例では、一般の特例子会社とは異なり、中小企業が事業協同組合等を活用して共同事業を行い、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の認定を受けたものについて、その事業協同組合等とその組合員である中小企業(特定事業主)において、実雇用率を算定できるものとなります。
出典:事業協同組合等算定特例(厚生労働省)
事業協同組合等の要件
事業協同組合の要件としては、次のことが定められています。
・事業協同組合、水産加工業協同組合、商工組合又は商店街振興組合であること。
・規約等に、事業協同組合等が障害者雇用納付金等を徴収された場合に、特定事業主における障害者の雇用状況に応じて、障害者雇用納付金の経費を特定 事業主に賦課する旨の定めがあること。
・事業協同組合等及び特定事業主における障害者の雇用の促進及び安定に関する事業(雇用促進事業)を適切に実施するための計画(実施計画)を作成し、 この実施計画に従って、障害者の雇用の促進及び安定を確実に達成することができると認められること。
・自ら1人以上の障害者を雇用し、また、雇用する常用労働者に対する雇用障害者の割合が、20%を超えていること。
・自ら雇用する障害者に対して、適切な雇用管理を行うことができると認められること(具体的には、障害者のための施設の改善、専任の指導員の配置等。)。
特定事業主の要件
事業協同組合に参加する特定事業主の要件としては、次のことが定められています。
・事業協同組合等の組合員であること。
・雇用する常用労働者の数が障害者法定雇用率の該当となっている規模の企業であること。
・子会社特例、関係会社特例、関係子会社特例又は他の特定事業主特例の認定を受けておらず、当該認定に係る子会社、関係会社、関係子会社又は特定事業主でないこと。
・ 事業協同組合等の行う事業と特定事業主の行う事業との人的関係又は営業上の関係が緊密であること。(具体的には、特定事業主からの役員派遣等)
・規模に応じた障害者を雇用していること。
ア 常用労働者数167人未満 要件なし
イ 常用労働者数167人以上250人未満 障害者1人
ウ 常用労働者数250人以上300人以下 障害者2人
組合員として事業協同組合等の協同事業に参加している企業であっても、障害者の雇用義務が0人である企業や、雇用促進事業には参加しない企業は特例対象になることができません。
事業協同組合等算定特例はどれくらいあるのか
現在、事業協同組合等算定特例として認定されている特例は8社となります(令和2年6月1日現在)。ビルメンテナンス業、介護事業といった同一業種の事業主で構成される組合が多くなっています。
出典:事業協同組合等算定特例(厚生労働省)
事業協同組合等算定特例は、まだ、事例としては多くありませんが、ひょうご障害者福祉協同組合の取り組みについては、事例が紹介されていますので、少し見ていきたいと思います。
ひょうご障害者福祉協同組合の取り組み
組合を設立するきっかけは、次のような理由だったそうです。
地域の障害者の半数以上が「働きたくとも就職できない」状態にあったことにある。
また、法定雇用率を達成している企業の多くが 大企業であり、地域で障害者の就労を進めるため には、組合を設立し、地域の中小企業が連携して 障害者の雇用を進める必要があると考えたからである。
出典:障害者雇用における異業種での「算定特例協同組合」の取り組みについて ――「ひょうご障害者福祉協同組合」の取り組み事例を中心に―(猪瀬 桂二)
ひょうご障害者福祉協同組合の概要
・組合員は33社 従業員 4057名(2018.10.22 現在)
・特定事業主 5社(障害者雇用率の通算ができる会社)+組合
・雇用率 2.9%(2016年度実績)
・具体的な組合活動
①特定事業主間での障害者雇用率の通算など制度活用事務
②協同事業(共同受注事業・共同購入事業・共同販売事業・共同施設の設置事業)
③教育・情報提供事業
メリット
もちろん障害者雇用率を達成するということも目的の一つとなっていますが、「共同事業」としての枠組みとしても機能しています。組合が「規模の経済」を活用して、組合外の企業や組織に対し仲介の役割を果たすことで、外部との交渉力を高め、単独で活動するよりも優位な経済活動を可能にしています。
また、障害者雇用にかかる行政への報告書や、達成できなかったときの雇入れ計画書の作成等は煩雑な業務になります。このような事務作業を含めたものが、大企業よりもマンパワーが不足しがちな中小企業にとっては負担軽減につながり、大きなメリットとなっているようです。
LLPを活用した事業協同組合等算定特例とは
事業協同組合等算定特例は、事業協同組合、水産加工業協同組合、商工組合又は商店街振興組合であることが求められていました。
しかし、平成29年より、国家戦略特区では、「有限責任事業組合(LLP)」が事業協同組合等算定特例制度の認定対象に加わっています。これにより、異業種の企業の参画ができることと、 設立手続きが簡単(行政の許認可等が不要)となりました。
出典:事業協同組合等算定特例(厚生労働省)
国家戦略特区は、以下の地域です。
・仙北市
・仙台市
・新潟市
・東京圏(東京都、神奈川県、千葉市、成田市)
・愛知県
・関西圏(大阪府、兵庫県、京都府)
・養父市
・今治市
・福岡市・北九州市
・沖縄県
(令和2年12月時点)
まとめ
中小企業が活用できる事業協同組合等算定特例の制度についてみてきました。この事業協同組合等算定特例は、一般的な特例子会社に比べると、まだ設立されている数も少なく、事例もあまり見られません。
あまり活用されていないということからは、使い勝手がよくないということが推察されますが、平成29年度からは、LLPを活用した事業協同組合等算定特例もでき、異業種の企業の参画ができることと、 設立手続きが簡単(行政の許認可等が不要)となるなど、変更が加えられています。
中小企業の障害者雇用が進まない中、いろいろな支援が行われています。事業協同組合等算定特例という制度を活用した方法については、今後、検討していく機会が増えていくかもしれません。
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