障害のある社員から、「仕事が重なると混乱してしまう」「最近かなり疲れている」と相談を受けた。
人事としては、無理なく働き続けられるようにしたい。そこで現場に「もう少し配慮してもらえませんか」と相談する。
すると、現場から返ってきたのは、「これ以上、どう配慮すればいいんですか?」という言葉でした。
こうした場面では、「現場の理解が足りない」「人事が現場の負担を分かっていない」と捉えたくなることがあります。
しかし、実際にはどちらかが間違っているのではなく、人事と現場で見ているものが違うために、話が噛み合っていないことがあります。
この記事では、「もっと配慮するか、しないか」で止まらず、仕事を成立させるために何を整理するとよいのかを考えます。
- 人事と現場で「配慮」の話が噛み合わない理由
- 「もっと配慮するか」ではなく、何を整理するとよいのか
- 仕事の要件・本人の状況・調整できることを見る考え方
- 人事と現場が同じ土台で話すための入口
「もう少し配慮を」と伝えても、現場では答えが出ないことがある
本人から困りごとを聞いた人事が、現場へ「もう少し配慮してほしい」と伝えることは不自然なことではありません。
一方、現場ではすでに仕事量を調整し、個別に説明し、困っていそうなときには声をかけていることがあります。
その状態で「さらに配慮を」と言われると、現場側からすると、「では、具体的に何を変えればいいのか」が分かりません。
人事は本人の困りごとを把握している。現場もできる範囲で対応している。
誰かが何もしていないから話が止まるのではなく、何を調整するのかが具体化されていないために、次の判断ができなくなっている場合があります。
人事は「働き続けられるか」、現場は「仕事が回るか」を見ている



この事例では、人事担当者は本人からの相談を受けて、「無理なく働き続けてもらいたい」と考えています。
一方、現場リーダーは、「すでに仕事量も減らしている。説明もしている。この仕事をどう回せばよいのか」と考えています。
人事が見ているのは、本人が働き続けられるかどうか。現場が見ているのは、日々の仕事が成立するかどうか。
この二つは対立するものではありません。どちらも雇用を続けるために必要な視点です。
ただし、見ているものが違うまま「配慮してください」「これ以上は難しいです」と話していると、議論は「やる・やらない」の往復になりやすくなります。


合理的配慮は「増やすか減らすか」ではなく、何を調整するかで考える
合理的配慮という言葉を使うと、「本人の要望をどこまで受け入れるか」という話になりやすいことがあります。
しかし、職場で考えたいのは、単に配慮を増やすかどうかではありません。
仕事を成立させるために、何が今の支障になっていて、何を調整すれば仕事を進めやすくなるのかを整理することが重要です。
例えば、「仕事が重なると混乱する」という相談があった場合でも、仕事量そのものが多いとは限りません。
複数の人から同時に依頼が入ることが問題なのかもしれませんし、優先順位が分からないことが負担になっている場合もあります。急な予定変更が続くことで、次に何をすればよいか判断しにくくなっている可能性もあります。
「仕事を減らす」という結論を先に決めるのではなく、どこで仕事が進みにくくなっているのかを見ることから始めます。
配慮を考えるときは「仕事の要件・本人の状況・調整できること」を分けて見る
現場と人事が話すとき、三つを分けて整理すると、話が具体的になります。
仕事では何が求められているのか
まず、本人への配慮を考える前に、その仕事自体を確認します。
いつまでに終える必要があるのか、どの程度の正確性が必要なのか、複数の仕事を並行して進める必要があるのか、どこまで本人が判断する必要があるのか。
仕事の要件が曖昧なままでは、何を調整すべきかも決めにくくなります。
本人はどこで仕事を進めにくくなっているのか
次に見るのは、診断名ではなく、実際の仕事への影響です。
「疲れやすい」「混乱する」という言葉だけではなく、いつ、どのような場面で起きているのかを見ることで、調整の対象が見えやすくなります。
例えば、仕事が一つずつ提示されているときは進められるが、複数の依頼が同時に入ると止まるのであれば、問題は仕事量そのものではなく、優先順位の判断にあるかもしれません。
会社として何を調整できるのか
仕事の要件と本人の状況が分かったら、会社側で何を変えられるかを考えます。
指示の出し方を変えられるのか、優先順位を明確にできるのか、相談先を決められるのか。反対に、納期や品質など、仕事として変えにくい条件もあります。
本人に合わせて仕事をすべて変えるのでもなく、本人にすべて合わせてもらうのでもなく、仕事を成立させる接点を探す。
合理的配慮を考えるときには、この視点が重要です。
「現場ができること」と「人事が決めること」を混ぜない
人事と現場の話が噛み合わなくなる背景には、配慮の内容だけでなく、誰が何を決めるのかが曖昧になっていることもあります。
現場で調整できるのはどこまでなのか。勤務条件や評価に関わることは誰が判断するのか。本人との確認や支援機関との連携は誰が担うのか。
これらが決まっていないと、現場リーダーが「どこまで自分で対応すればよいのか」と抱え込むことがあります。
一方、人事側も「現場で工夫してほしい」と伝えるだけでは、何を任せ、何を人事に戻してほしいのかが伝わりません。
配慮の内容だけでなく、「誰が、どこまで決めるのか」を整理しておくことも、現場の負担を減らすことにつながります。
人事と現場が同じ問いを持てると、話し合いが変わる
「本人が困っています。もっと配慮してください」「もう十分やっています。これ以上はできません」この二つだけを並べると、どちらかが譲る話になってしまいます。
しかし、「この仕事を成立させるために、今どこを調整する必要があるのか」という問いに変えると、人事と現場が同じものを見ながら話しやすくなります。
本人が働き続けられることと、現場で仕事が回ることは、どちらかを選ぶものではありません。
両方を成立させるために、仕事の要件、本人の状況、調整できる範囲を整理していきます。
- 本人から相談があるたびに、現場へ「配慮してください」と伝えている
- 現場から「これ以上は難しい」と言われることがある
- 何を調整すべきなのか、本人・人事・現場で認識がそろっていない
- 現場がどこまで判断し、どこから人事へ戻すのかが曖昧になっている
現場の対応や判断を、個人任せにしないために
合理的配慮や本人への対応は、ケースごとに考える必要があります。
一方で、毎回一人の管理職や人事担当者が悩みながら判断する状態が続くと、対応のばらつきや負担の集中につながります。
現場で何を見て、どこまで判断し、どこから他の人につなぐのか。こうした考え方をチームで共有しておくことが、個別ケースへの対応もしやすくします。
よくある質問
Q:本人から配慮を求められたら、すべて対応する必要がありますか?
本人から希望を聞くことは重要ですが、希望された方法をそのまま実施することだけが合理的配慮ではありません。どの仕事でどのような支障が生じているのかを確認し、仕事の要件や職場環境を踏まえながら、どのような調整が可能かを話し合っていきます。
Q:現場が「これ以上はできない」と言ったら、配慮を断ってよいのでしょうか?
「できる・できない」だけで終わらせるのではなく、何が難しいのかを具体化することが重要です。現在行っている対応、仕事として変えにくい条件、別の方法で調整できる部分を分けて整理すると、代替案が見つかることがあります。
Q:合理的配慮は人事と現場のどちらが決めるのでしょうか?
内容によって異なります。日々の指示方法など現場で調整できることもあれば、勤務条件や制度、配置など人事や組織として判断する必要があることもあります。大切なのは、すべてを現場に任せず、誰がどこまで判断するのかを決めておくことです。
まとめ|「もっと配慮を」から、「何を調整するか」へ
本人が困っている。現場もすでに対応している。この状態で話が止まったとき、どちらかにさらに頑張ってもらうだけでは解決しないことがあります。
まず確認したいのは、仕事で何が求められているのか、本人はどこで仕事を進めにくくなっているのか、会社として何を調整できるのかということです。
合理的配慮は、単に配慮を増やすことではなく、仕事を成立させるために必要な環境や方法を調整していくことです。
そして、人事と現場が同じ問いを持てるようになると、「どこまでやるか」という対立から、「どうすれば仕事が成立するか」という話し合いへ変えていくことができます。
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