情報共有を見直す|判断理由が残る組織の情報設計

情報共有を見直す|情報を増やすより、判断理由が残る仕組みをつくる

診断結果|情報共有を見直す段階です

今の状況では、さらに情報を増やすことよりも、「必要な人に、判断できる形で情報が届いているか」を見直すことが、次の一歩になりそうです。

面談記録や報告書が残っていても、「なぜその対応になったのか」が分からなければ、次の人はまた最初から考えなければなりません。

情報共有が大切だと言われると、私たちは「もっと伝えなければ」と考えます。

面談内容を記録する。
関係者へメールを送る。
会議で状況を報告する。
共有フォルダに資料を保存する。

それでも、しばらくするとこんなことが起こります。

「結局、何が決まったんでしたっけ」
「あの対応をしている理由は何でしたか」
「前の担当者は分かっていたと思うのですが……」

情報はあるのに、判断できない。
この状態は、情報の「量」ではなく、情報の「残し方」に問題がある可能性があります。

情報共有とは、たくさん伝えることではなく、次の人が判断できる状態をつくること。
情報共有を見直すときには、この視点が重要です。

このページでわかること

  • 情報が共有されているのに判断できない理由
  • 「情報」と「判断理由」を分けて考える意味
  • 障害者雇用で、すべての情報を共有すればよいわけではない理由
  • 担当者が変わっても判断を引き継げる情報共有の考え方
  • 会議や連絡を増やす前に確認したいこと

 

情報はあるのに、なぜ判断できないのか

 
障害者雇用の現場では、さまざまな情報が集まります。

本人との面談内容。
現場からの報告。
仕事上の困りごと。
本人から希望された配慮。
これまでに行った対応。

丁寧な会社ほど、こうした情報をきちんと記録していることも少なくありません。

ところが、記録を読み返してみると、
「本人がこう話した」
「現場からこういう意見が出た」
「人事が面談をした」
という経過は残っていても、

「では、会社として何を決めたのか」が分からないことがあります。

さらに、「なぜその判断になったのか」まで残っていないと、担当者が変わったときや、似たケースが起きたときに、もう一度最初から考えることになります。

問題は、情報が少ないことではありません。
事実や発言は残っていても、判断につながる形で情報が整理されていないことです。
 

「情報共有」と「判断理由の共有」は違う

 
たとえば、本人から、「勤務時間を少し短くしたい」という相談があったとします。
これを記録するだけなら、「本人から勤務時間短縮の希望あり」という情報になります。

しかし、この一文だけを後から読んでも、
なぜ希望しているのか。
仕事にはどのような影響があるのか。
会社は何を確認したのか。
最終的にどのような対応をしたのか。
までは分かりません。

判断を引き継ぐためには、
何が起きたか

何を判断材料として確認したか

何を決めたか

なぜその判断にしたのか
という流れが見えることが大切です。

もちろん、すべてを詳細に文章化する必要はありません。

重要なのは、後から別の人が見たときに、
「なるほど。この情報を見て、この判断をしたのか」と理解できることです。

つまり、組織に残したいのは、出来事の記録だけではありません。
判断までのつながりです。
 

障害者雇用では「全部共有する」ことも正解ではない

 
情報共有を改善しようとすると、
「もっと本人について現場に伝えた方がよいのではないか」
という話になることがあります。

しかし、情報共有を増やすことと、本人について詳しく知らせることは同じではありません。
障害や疾病、本人の生活や過去の経験などには、プライバシーに関わる情報も含まれます。
本人について知っている情報を、関係者全員が知る必要があるわけではありません。

考えたいのは、
「この人について何を知っているか」ではなく、「この人と仕事をするために、誰が何を知る必要があるか」
です。

たとえば、現場の上司が必要としているのは、診断名そのものではなく、
「どのような場面で負担が生じやすいのか」
「どのような伝え方だと仕事を進めやすいのか」
「困ったときは誰に相談すればよいのか」
といった、仕事を進めるための情報かもしれません。

一方、人事には、会社としての対応を判断するために、別の情報が必要になることもあります。

情報共有では、
何を共有するかだけでなく、誰に、何のために共有するのか
を考える必要があります。
 

「知っている人」がいなくなると、組織が元に戻る

 
長く担当している人の中には、驚くほど多くのことを覚えている人がいます。

本人が以前どのようなことで困ったのか。
なぜ今の配慮になったのか。
現場とどのような調整をしたのか。
過去に試した方法のうち、何がうまくいかなかったのか。

その人に聞けば、ほとんどのことが分かります。
一見すると、うまく情報共有できているように見えます。

しかし、その人が異動や退職をすると、一気に分からなくなるのであれば、
それは「組織が知っている」のではなく、「その人が知っている」状態です。

新しい担当者は、本人へもう一度同じことを聞きます。
現場にも確認します。
過去の資料を探します。
そして、もう一度同じような判断をし直します。

これは会社にとっても負担ですが、本人にとっても、
「また最初から説明しなければならない」
という負担になります。

情報共有の目的は、全員がすべてを知ることではありません。
担当者が変わっても、必要な判断を引き継げる状態にすることです。
 

会議を増やしても、情報共有が改善するとは限らない

 
情報共有に問題があると、
「もう少し頻繁に話し合いましょう」
という対応が取られることがあります。

定例会議を増やす。
関係者をCCに入れる。
チャットグループをつくる。
面談回数を増やす。

こうした方法が必要なこともあります。

しかし、コミュニケーションの量を増やしたからといって、必ずしも情報共有が改善するわけではありません。

むしろ情報が増えすぎて、「どれが重要なのか分からない」という状態になることもあります。

確認したいのは、会議の回数ではなく、
誰がこの情報を必要としているのか。
何を判断するための情報なのか。
何が決まったのか。
判断した理由をどこに残すのか。
という設計です。

情報共有の問題を、コミュニケーション量だけで解決しようとしない。
これも大切な視点です。
 

まず整理したい3つのこと

 
情報共有を見直すからといって、新しいシステムや細かなルールをすぐにつくる必要はありません。

まずは、次の3つを確認してみてください。

1.何を判断するための情報なのか
情報は、集めること自体が目的ではありません。

本人の状況を知るためなのか。
仕事上の調整を考えるためなのか。
会社として配慮を判断するためなのか。

目的によって、必要な情報は変わります。
まず「何を判断するために必要なのか」を明確にします。

2.誰がその情報を必要としているのか
情報は、多くの人に共有すればよいわけではありません。

本人と日常的に仕事をする人。
現場の管理職。
人事。
最終的な判断をする人。

それぞれ必要な情報は異なります。
役割に応じて、必要な情報を考えることが重要です。

3.判断と、その理由が残っているか
経過だけでなく、

「何を決めたのか」
「何を見て、その判断にしたのか」

まで後から分かる状態になっているかを確認します。
ここが残っていると、担当者が変わったときや、状況を見直すときにも判断をつなぎやすくなります。

自社ではどうでしょうか

・面談記録を読めば、「何が決まったか」まで分かりますか
・担当者が変わっても、なぜ今の対応をしているのか説明できますか
・本人について知っている情報ではなく、仕事に必要な情報を共有できていますか
・会議に参加していなかった人でも、後から判断の流れを追えますか

答えにくいものがあれば、情報量を増やす前に、情報の残し方や渡し方を見直す余地があります。

 

情報があっても、判断基準が違えば答えは変わる

 
情報共有が整理されると、必要な人が同じ情報をもとに考えやすくなります。

ただし、それだけではまだ十分ではありません。

同じ情報を見ても、
「ここまでは対応した方がよい」
「これは本人に求めるべきだ」
「このケースは例外として扱うべきだ」
と、人によって結論が変わることがあります。

そこには、情報共有とは別の問題があります。
「何を基準に判断するのか」がそろっていないという問題です。

情報共有とは、全員を同じ結論にするためのものではありません。
まず、必要な情報と判断理由を組織の中に残す。

そのうえで、「では、何を基準に決めるのか」を考える必要があります。

これは、次の「判断基準」のテーマにつながります。
 

まとめ|情報共有とは、次の人が判断できる状態をつくること

 
情報共有を改善するというと、つい、
「もっと情報を集めよう」
「もっと話し合おう」
「もっと多くの人に知らせよう」
と考えます。

しかし、大切なのは情報量ではありません。

何を判断するための情報なのか。
誰が必要としているのか。
何を決めたのか。
なぜその判断になったのか。
このつながりを、必要な人がたどれる状態にすることです。

障害者雇用では、本人に関する情報も多く集まりやすいため、なおさら「全部共有する」という考え方ではうまくいきません。

必要な情報を、必要な人へ。
そして、判断とその理由を、次の人へ。

情報共有とは、たくさん伝えることではなく、次の人が判断できる状態をつくること。

その状態ができると、担当者が変わっても、組織として判断をつないでいきやすくなります。

ほかの視点も確認する

情報共有を整理しても、判断が止まる理由はほかにもあります。
今回の診断結果だけでなく、自社で気になる視点があればあわせて確認してみてください。

仕事・入口|何を任せ、何を期待するのか
そもそも任せる仕事や期待する役割が曖昧な場合は、情報共有の前に「仕事・入口」の設計から確認してみてください。
→ 仕事・入口の設計を見直す
判断基準|何を基準に決めるのか
必要な情報はそろっているのに、人によって結論が変わる場合は、判断するときの基準が関係しているかもしれません。
→ 判断基準を見直す
役割・権限|誰が、どこまで決めるのか
情報も判断材料もあるのに、最終的な対応がなかなか決まらない場合は、役割や権限を確認してみてください。
→ 役割・権限を見直す