発達障害のある社員に、「曖昧な指示では分かりにくいだろう」「失敗しないように、できるだけ具体的に伝えよう」と考え、一つひとつ細かく説明している上司は少なくありません。
最初は、本人が仕事をしやすくするための工夫だったはずです。
ところが、気づくと、「次は何をすればいいですか」「これはどちらを優先しますか」「この場合はどうしたらいいですか」と確認されるたびに、上司が答えるようになっている。
本人の仕事が増えるほど、上司が考えることも増え、自分の仕事が進まなくなることもあります。
このようなとき、考えたいのは、「もっと分かりやすく指示するにはどうすればよいか」だけではありません。
分かりやすくするための「支援」と、本人が担うはずの「判断を代わること」が混ざっていないかを見る必要があります。
この記事では、細かな指示そのものを否定するのではなく、上司が判断まで抱え込んでいないかを考えるための視点を整理します。
・なぜ上司の指示がどんどん細かくなるのか
・分かりやすくする「支援」と「判断を代わること」の違い
・上司が判断を抱え続けることで起きること
・上司の負担が大きくなったときに見直したい視点
なぜ上司は、どんどん細かく指示するようになるのか
発達障害のある社員の中には、曖昧な指示や、複数の意味に取れる表現を理解しにくい人もいます。
そのため、「なるべく具体的に伝えよう」「手順を明確にしよう」「迷わないように一つずつ説明しよう」と工夫することがあります。
こうした対応そのものが問題なのではありません。むしろ、仕事を進めやすくするために、指示方法を分かりやすくすることが有効な場合もあります。
ただ、対応を続けているうちに、説明することから、上司が答えを出すことへ変わっていくことがあります。
本人から質問される。上司が答える。次の場面でも質問される。また上司が答える。
これが繰り返されると、上司は本人の仕事について、常に考え続けなければならなくなります。
細かく指示すること自体が問題なのではない
ここで区別しておきたいのは、「細かく指示すること」と「判断を代わること」は同じではないということです。
仕事の目的や手順を分かりやすく伝える。優先順位を理解できるようにする。困ったときの相談先を明確にする。
こうしたことは、本人が仕事を進めやすくするための支援になります。
一方で、「次に何をするのか」「どちらを選ぶのか」「今回はどう判断するのか」といったことまで、毎回上司が決める状態になると、少し意味が変わってきます。
見るべきなのは、「どれくらい細かく説明しているか」ではなく、「誰が仕事の判断をしているか」です。
「支援すること」と「判断を代わること」は違う
支援の目的は、本人が仕事をしやすくなることです。
そのために、職場側が仕事の条件を整えたり、分かりにくい部分を明確にしたりすることがあります。
しかし、本人が迷うたびに上司が答えを出していると、本人が仕事をしているように見えても、実際には上司が仕事を動かしているという状態になることがあります。
これは、本人が悪い、上司の教え方が悪い、という話ではありません。最初は必要だった支援が、いつの間にか別の役割まで引き受ける形になっていないかを見るということです。
支援は、仕事をしやすくするためのもの
たとえば、
・何をする仕事なのか分かる
・仕事の進め方が分かる
・困ったときに何を確認すればよいか分かる
という状態をつくることは、本人が仕事を進めるための支援につながります。
判断代行は、上司が答えを持ち続ける状態
一方で、「次は何をすればよいか」「どちらを優先するか」「このケースはどう処理するか」について、毎回上司が答えるようになると、判断が上司に集まります。
ここで考えたいのは、本人が担う部分まで、上司が引き受けていないかということです。
判断を代わり続けると、上司だけの問題ではなくなる
上司が判断を引き受け続けると、最初に見えやすいのは上司の負担です。本人の業務が増えれば、その分だけ確認されることも増えます。
すると、「本人の仕事を確認するだけで時間がなくなる」「自分の仕事に集中できない」という状態になることがあります。
しかし、影響はそれだけではありません。
本人が判断する機会が少なくなる
分からないことがあるたびに上司から答えをもらう状態が続けば、本人自身が考えたり、判断したりする機会は少なくなります。
もちろん、すべてを本人だけで判断すればよいという意味ではありません。
大切なのは、何を支援し、何を本人に担ってもらうのかを分けて考えることです。
上司がいないと仕事が止まりやすくなる
毎回同じ上司が判断していると、その人が休んだときや忙しいときに仕事が止まりやすくなります。
これは本人だけの問題ではなく、仕事の進め方そのものが一人の上司に依存している状態とも言えます。
支援しているつもりが、結果として別の属人化を生んでいることもあります。
ケース|細かく指示していたら、上司が判断まで抱えていた
曖昧な指示が苦手な社員がいたため、上司は仕事を一つずつ具体的に説明するようにしていました。
最初は、作業手順を分かりやすくすることが目的でした。
ところが次第に、「今日はどの仕事から始めればよいですか」「AとBなら、どちらを先にしますか」「この場合はどうすればよいですか」と確認されるたびに、上司が答えるようになりました。
気づけば、作業方法だけでなく、仕事の順番や優先順位、その場での判断まで上司が決めています。
このとき、「本人がもっと自分で考えるべき」と考えるだけでは、状況は整理できません。
一方で、「発達障害なのだから、これからも全部指示するしかない」と考える必要もありません。
ここで見たいのは、本人が仕事をするために必要な支援は何なのか。本人自身に担ってもらいたい判断は何なのか。ということです。
実際には、本人の経験、仕事の難しさ、判断を間違えた場合の影響などによっても、どこまで任せるかは変わります。
「本人の特性」の前に、仕事のつくり方を見る
上司が細かな指示を続けていると、「この人は自分では判断できない」という問題に見えることがあります。
しかし、本当に本人の特性だけが原因なのでしょうか。
たとえば、
・何を優先する仕事なのか
・どこまで本人が決めてよいのか
・どんなときに上司へ相談するのか
といったことが、職場側でも曖昧な場合があります。
本人が判断できないように見えても、そもそも判断するための条件が整理されていないということもあります。
そのため、「本人にどう教えるか」だけでなく、仕事そのものをどうつくっているのかを見る視点も必要です。
上司が疲れていること自体が、見直しのサイン
「何をするにも聞かれる」「毎回、自分が仕事を組み立てている」「本人の仕事を支えるだけで、自分の時間がなくなる」という状態が続いているなら、それは上司が我慢すればよい問題ではありません。
また、本人への配慮をやめればよいということでもありません。今の支援の仕方が、本人にも上司にも合っているのかを見直すサインと考えることができます。
本人の特性だけを見るのではなく、「職場が何を支援するのか」「本人に何を担ってもらうのか」「仕事の中で誰が判断しているのか」という視点で見直すと、問題の見え方が変わってきます。
迷ったときに考えたい3つの問い
細かな指示が増え、上司の負担が大きくなっているときには、次の3つを考えてみてください。
この3つの問いだけで、「どこまで本人に判断を任せるか」が決まるわけではありません。
実際には、仕事内容、本人の経験、判断を誤ったときの影響、職場の体制など、複数の条件を見ながら考える必要があります。
だからこそ、単に「もっと細かく指示する」「本人に任せる」という二択ではなく、状況に応じて判断することが重要になります。
判断を間違えたときの影響が大きい仕事ではどう考えるのか。
本人と上司で「任せられる範囲」の認識が違うとき、何を確認するのか。
よくある質問
Q:発達障害のある社員には、細かく指示した方がよいですか
曖昧な指示を避け、仕事の目的や手順を分かりやすく伝えることが役立つ場合はあります。
ただし、どこまで具体的な指示が必要かは、本人の状況や仕事内容によって異なります。「発達障害だから細かく指示する」と一律に考えないことが大切です。
Q:何度も同じことを聞かれる場合、毎回答えた方がよいですか
まず、なぜ同じ確認が必要になっているのかを見ることが重要です。
本人が理解しにくいのか、仕事の条件が曖昧なのか、上司に確認することが習慣になっているのかによっても考え方は変わります。
Q:本人に判断を任せて失敗した場合はどう考えればよいですか
すべての判断を本人だけに任せるという意味ではありません。
仕事内容や本人の経験、失敗した場合の影響などを見ながら、どこを本人に担ってもらい、どこを職場で支えるのかを考えます。
Q:どこまで本人に判断を求めてよいのでしょうか
一律に線を引くことはできません。
本人の経験や仕事内容、職場の体制などによっても変わるため、「何を本人に任せるか」だけでなく、「その判断ができるために何を整える必要があるか」も一緒に考えることが重要です。
Q:上司の負担が大きい場合、配慮を減らしてよいのでしょうか
上司が疲れているから、すぐに配慮を減らすということではありません。
現在の支援方法が本人と職場の双方に合っているのか、上司が本来担わなくてもよい判断まで引き受けていないかを見直すことが必要です。
まとめ|支援することと、判断を代わることを分けて考える
発達障害のある社員に分かりやすく指示することは、仕事を進めるための有効な支援になることがあります。
しかし、本人が迷うたびに上司が答えを出していると、いつの間にか上司が本人の仕事の判断まで抱えていることがあります。
大切なのは、細かく指示するか、本人に任せるかという二択ではありません。
何を支援し、何を本人に担ってもらうのか。
そして、本人が判断するために、仕事の側で何を整理する必要があるのか。という視点です。
上司が疲れているときは、本人への支援をやめるサインではなく、支援の仕方そのものを見直すサインかもしれません。
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