障害者雇用では、一人の社員に複数のスタッフが関わることがあります。
人事、現場の管理職、障害者雇用の担当者、支援担当者。場合によっては、産業保健スタッフや外部の支援機関が加わることもあります。
それぞれが本人のためを考えているのに、「もう少し安心できる関わりが必要では」「でも、現場ではかなり配慮している」「まず本人の気持ちを丁寧に見た方がいい」「それで、今回はどう進めるのか」と、話がまとまらないことがあります。
このようなとき、「スタッフ間の連携が取れていない」と考えがちです。しかし、問題は単にコミュニケーションが不足していることではありません。
同じ社員を見ていても、立場や経験によって、見ているポイントが違うことがあります。
障害者雇用で支援方針がまとまらないときに必要なのは、全員の意見を同じにすることではありません。
何を見て、何をもとに整理し、誰が何を担うのか。その土台をそろえることです。
この記事では、スタッフ間で話が噛み合わなくなる理由と、支援する側が同じ土台で判断するための考え方を整理します。
・障害者雇用でスタッフ間の意見が分かれやすい理由
・情報共有を増やすだけでは連携が改善しない理由
・支援方針を考える前に整理したい4つの視点
・共通の土台をつくったあと、何をそろえる必要があるのか
スタッフ間の連携が取れないのは、情報共有不足だけではない
スタッフ同士の意見が合わないと、「もっと情報共有した方がいい」「定期的にミーティングをした方がいい」と考えることがあります。
もちろん、必要な情報が共有されていなければ、情報共有は必要です。ただし、同じ情報を共有していても、支援方針がまとまらないことがあります。
なぜなら、同じ出来事を見ても、その意味の捉え方が人によって違うからです。
例えば、本人が「最近、仕事に自信がありません」と話したとします。
あるスタッフは、「不安が強くなっている。もう少し丁寧に見守った方がいい」と考えるかもしれません。
別のスタッフは、「自分で判断できる範囲を増やした方が、自信につながるのでは」と考えるかもしれません。
さらに、「そもそも、仕事の優先順位や指示が分かりにくいのでは」と考える人もいるでしょう。
見ている事実が同じでも、何を問題と捉えるか。何を優先するか。どのような支援が必要だと考えるか。そこに違いがあると、話し合いを増やしても結論はまとまりにくくなります。
同じ社員を見ていても、スタッフによって見ているポイントが違う
ある職場で、障害のある社員について関係者が話し合っていました。
本人は最近、不安が強そうに見えます。人事は、もう少し安心できる関わりが必要ではないかと考えました。
一方、現場では、すでにかなり配慮しているという感覚があります。支援担当者は、まず本人の気持ちを丁寧に見た方がよいと考えています。管理職は、「では、今回はどう進めるのか」と結論を求めています。

誰の意見も、本人のためを考えたものです。それでも、話はまとまりません。

このようなとき、「スタッフ同士の連携が悪い」と考えることがあります。しかし、もう少し分けて見ると、別のことが起きています。

人事は、「本人が働き続けられるか」を見ています。
現場は、「仕事が成立するか」を見ています。
支援担当者は、「本人が安心して働けるか」を見ています。
管理職は、「チーム全体が回るか」を見ていることがあります。
どれか一つが正しく、ほかが間違っているわけではありません。どの視点も、雇用を続けていくために必要です。
問題になるのは、自分が見ているものを、相手も同じように見ていると思ったまま話を進めることです。
誰の意見が正しいかを決める前に、「整理の土台」をそろえる
スタッフ間で意見が分かれたとき、すぐに、「どの意見を採用するか」「誰の考えが正しいか」を決めようとすると、対立が深くなることがあります。
その前に必要なのは、何について話しているのかをそろえることです。

支援方針を考えるときは、少なくとも次の4つを分けて整理します。
本人の特性・困りごとは何か
まず、本人が実際に何に困っているのかを確認します。
「不安が強そう」「仕事が苦手そう」といった周囲の印象だけではなく、本人が何を負担に感じているのか、仕事のどの場面で進めにくさが出ているのかを見ます。
推測だけで支援方法を決めないことが重要です。
仕事として何が求められているのか
次に、その仕事で必要なことを確認します。
期限、品質、手順、優先順位、判断、周囲との連携など、仕事として維持する必要があるものは何か。
本人だけを見ていると、「どこまで配慮するか」という話になりやすくなります。
仕事の要件を確認すると、何を維持し、どこを調整できるのかを考えやすくなります。
職場環境の何が支障になっているのか
困りごとの原因が、本人側にだけあるとは限りません。
例えば、指示が複数の人から同時に出る。優先順位が分かりにくい。相談する相手が決まっていない。担当者によって説明が違う。
こうした環境側の要因によって、仕事が進めにくくなっていることもあります。本人の特性だけを見るのではなく、職場側で変えられるものがないかも確認します。
今回の支援では、何を目指すのか
「本人を支援する」という言葉だけでは、目的が広すぎます。今回、何を改善したいのでしょうか。
例えば、仕事の優先順位を分かりやすくする。必要なときに相談できるようにする。業務上求められていることを本人と共有する。スタッフからの説明を統一する。
目的が違えば、必要な対応も変わります。支援方法を決める前に、「今回は何を目指しているのか」を共有することが重要です。
「見立て」をそろえるのではなく、見立てをつくる土台をそろえる
ここで注意したいのは、全員が同じ見立てを持たなければならないわけではないということです。
現場だから見えることがあります。人事だから見えることがあります。本人と日常的に関わる支援担当だから気づけることもあります。
異なる立場から違う意見が出ること自体は、問題ではありません。むしろ、複数の視点があることは、状況を多面的に見るうえで役立ちます。
問題になるのは、「私はこう思う」「私は違うと思う」という意見だけが並び、何をもとに判断しているのかが共有されていない状態です。
必要なのは、意見そのものをそろえることではなく、本人の状況、仕事の要件、職場環境、支援の目的という共通の土台から考えることです。
そうすると、「誰の意見が正しいか」ではなく、「今回の状況では、何が一番の課題なのか」という話に変わっていきます。
土台がそろうと、スタッフ同士の話し合いが変わる
整理の土台がそろうと、話し合いは具体的になります。
例えば、「本人の不安そのものが問題なのではなく、仕事の優先順位が分かりにくいことが負担になっているのでは」という整理ができれば、「それなら、指示の出し方を変えられそうです」
「本人への説明も、同じ内容でそろえた方がよさそうですね」と、次の対応を考えられるようになります。

ここで重要なのは、単に「何をするか」だけではありません。誰が何を担当するのかまで整理することです。
例えば、現場が日常的に調整すること。管理職が判断すること。人事と確認すること。支援担当者が本人と確認すること。必要に応じて外部支援機関から助言を受けること。
この区別がないと、せっかく方針が決まっても、「誰が伝えるのか」「誰が対応するのか」で再び止まります。
スタッフの認識がそろわないと、本人にも違うメッセージが届く
スタッフ間の連携は、支援する側だけの問題ではありません。認識がそろっていないと、そのズレは本人への関わり方にも表れます。
例えば、あるスタッフからは、「無理をしなくて大丈夫です」と言われる。別のスタッフからは、「もう少し自分で考えて進めてください」と言われる。また別のスタッフからは、「分からなかったら、すぐに何でも聞いてください」と言われる。それぞれの言葉だけを見れば、間違っているとは限りません。
しかし、本人からすると、「結局、自分には何が求められているのか」が分からなくなります。
支援する側が共通の土台で考えることは、本人に一貫したメッセージを届けることにもつながります。
スタッフ同士の連携は、「仲良くすること」ではない
スタッフ間の連携というと、「関係をよくする」「コミュニケーションを増やす」ことを思い浮かべるかもしれません。もちろん、それらも大切です。
ただ、障害者雇用のように、異なる立場や専門性を持つ人が関わる場面では、それだけでは十分ではありません。
必要なのは、違う立場の人が、同じ土台で状況を整理し、組織として判断できる状態をつくることです。
障害者雇用の経験が長い人。現場マネジメントの経験が豊富な人。支援の経験を持つ人。人事制度や労務の視点を持つ人。
バックグラウンドが違えば、見えるものも違います。だからこそ、その違いをなくすのではなく、違いを活かしながら判断できる仕組みが必要です。
・同じ社員について、担当者ごとに見方が違う
・会議をしても「私はこう思う」で終わってしまう
・支援方針が、経験のあるスタッフの判断に左右される
・本人への説明が、スタッフによって違っている
・支援方針は決まっても、誰が対応するのか曖昧になる
複数当てはまる場合、単なる情報共有不足ではなく、判断や連携の土台がそろっていない可能性があります。
立場や経験が違っても、同じ土台で判断できるチームへ
障害者雇用では、ケースが起きるたびに「正解」を探そうとすると、経験のある担当者や特定の人に判断が集中しやすくなります。
しかし、実際の職場では、同じケースがそのまま繰り返されるわけではありません。
だから必要なのは、ケースごとの正解を覚えることではなく、状況をどう整理し、何をもとに判断し、誰が何を担うのかという共通の考え方を持つことです。
「チームを動かすマネジメント研修」では、障害者雇用を含む職場のケースをもとに、立場や経験が違うメンバー同士で、どのように状況を整理し、判断していくかを扱います。
個別ケースの正解を覚えるのではなく、本人の状況、仕事、職場環境、支援の目的を整理しながら、誰が何を判断するのかを考えていきます。
多様なメンバーがいる職場でも、特定の担当者だけに判断を集中させないチームづくりを考える研修です。
スタッフ間で意見が分かれている場合でも、問題が「情報共有」「判断基準」「役割」のどこにあるのかは、組織によって異なります。
自社の状況を一度整理したい場合は、30分相談をご利用ください。
よくある質問
Q:スタッフ同士で意見が違うこと自体が問題なのでしょうか?
いいえ。立場や経験が違えば、意見が違うことは自然です。
大切なのは、違う意見が出たときに、何を事実として見ているのか、何を課題と捉えているのか、今回何を目指しているのかを共有できることです。
全員の意見を同じにすることよりも、同じ土台で話せる状態をつくることが重要です。
Q:スタッフ間の連携をよくするには、会議を増やせばよいですか?
会議や情報共有が必要な場合もあります。ただし、判断する土台がそろっていないまま会議を増やしても、「私はこう思う」という意見交換だけで終わることがあります。
会議の回数だけでなく、何について整理し、何をもとに判断するのかを共有することが重要です。
Q:障害のある社員への支援方針は、誰が決めればよいですか?
一律に「人事」「現場」「支援担当」と決めることはできません。内容によって、現場で調整すること、管理職が判断すること、人事と確認することなどが変わります。
そのため、支援方針だけでなく、誰がどこまで判断し、誰が実行するのかも整理しておくことが必要です。
Q:外部の支援機関の意見に合わせればよいのでしょうか?
外部支援機関からの助言は、本人の特性や支援方法を考えるうえで重要な情報になります。
一方で、仕事内容、職場運営、どこまで業務上の調整を行うかなどは、会社側で判断する必要があります。
外部から助言を受けることと、会社としての判断を外部に委ねることは別です。
まとめ|連携をよくするには、「同じ土台で話せる状態」をつくる
障害者雇用でスタッフ間の連携が取れないとき、「もっと情報共有をしよう」「もっと話し合おう」だけでは解決しないことがあります。
人事、現場、管理職、支援担当など、立場や経験が違えば、同じ社員を見ていても、見ているポイントが異なるからです。
必要なのは、誰の意見が正しいかを決めることではありません。本人の特性・困りごと、仕事の要件、職場環境、今回の支援の目的を整理し、共通の土台から考えること。
そして、そのうえで、本人に何を伝えるのか、誰が何を担当するのかまでそろえることです。
スタッフ同士の連携は、「仲良くすること」ではありません。立場や経験が違っていても、同じ土台で状況を整理し、組織として判断できること。その状態をつくることが、障害者雇用を特定の担当者の経験だけに頼らない組織づくりにつながります。
障害者雇用で判断基準をどう設計するか
ケースが起きるたびに判断が変わらないために、組織として何を基準に考えるかを整理します。
障害者雇用で役割・権限をどう整理するか
現場、人事、管理職など、誰がどこまで判断するのかを考える視点を整理します。
障害者雇用で情報共有をどう設計するか
本人に関する情報を、誰と、何のために、どこまで共有するのかを考えます。
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